中小企業経営者の皆様の中には、「今経営している会社を売却したらいくらになるのだろうか」、「自分の会社は市場においてどのくらいの価値で評価されるだろうか」と、ふと思った経験があるのではないでしょうか。

 

会社の価値算定において、明確に○○億円と算出する方法はなく、計算方法も様々です。

今回は、『中小企業経営者のための企業価値評価(入門編)』と題し、中小企業の中でも比較的小さい企業の経営者(個人で飲食店や美容室などの店舗を経営している方なども含みます)向けに、会社の価値の評価方法を解説します。

 

中小企業の経営者の皆様が、会社の売却時や市場での評価を考える際に参考にしていただければ幸いです。

【企業価値評価の必要性】

 

中小企業の株主(売主)が、株式譲渡で会社の売却を検討する場合、会社の価値評価を行うのは基本的に買主ないし買主のアドバイザリーであり、売主が正式な評価を行うケースは稀です。

 

ただし、売主としても自社の会社の価値がどれくらいであるかの目線を持ち、またその算出方法をある程度理解しておく事は重要です。

 

これによって、将来会社を売却する際に、買主との交渉をスムーズ行うことが出来ますし、もっと言えば適正な価格より低い価格で売却を回避できます。

 

【評価方法】

 

評価方法の種類には、主に以下の種類に分けることができます。

評価アプローチ 内容
インカム・アプローチ 将来期待されるキャッシュフローや利益から価値を算定する方法 ・DCF法

・配当還元法

マーケット・アプローチ 類似している上場企業や類似取引事例等から価値を算定する方法 ・市場株価法

・類似上場会社法

・類似取引法

ネットアセット・アプローチ(コスト・アプローチ) 対象会社の貸借対照表の純資産に着目して価値を算定する方法 ・(修正)簿価純資産法

・時価純資産法

 

御覧の通り、評価の方法には様々な方法があります。(上記の評価方法も一例にすぎまぜん。)

「どの方法を使うか」、もっと言えば「誰が評価するか。」によって、会社の評価額は異なってきます。

 

今回のブログでは、個人で飲食店や美容室を営む経営者を含む、中小企業の経営者向けに、すぐに実践できる評価方法を2つ(『修正簿価純資産に数年分の利益を加算する方法』、『類似会社比較法(マルチプル法)』)を紹介します。

 

『修正簿価純資産に数年分の利益を加算する方法・・・初級』

 

この方法は、貸借対照表の純資産に数年分の利益を加算する方法です。

法人であれば、毎期決算書を作成していると思いますので、直前期の決算書と見比べながら、自社の価値を算定できる方法です。

計算式

株式価値(売却価額) = 修正純資産(①) + 利益(②) × 年数(③)

 

手順

 ✔ 修正純資産

まずは、会社の貸借対照表を見直し、資産・負債の構成要素を確認します。

ここで、主に以下の項目がないか確認してみましょう。

a)簿価が毀損している資産 (例えば、回収が困難な売掛金や販売の見込めない商品など)

b)事業と直接関係のない資産 (例えば、保険積立金やゴルフ会員権など)

c)未計上の負債 (従業員や役員の退職引当金など)

 

洗い出した資産・負債の時価評価(現時点で売却したらいくらか?を評価)を行い、評価した資産・負債を決算書の貸借対照表の資産・負債と置き換え、資産合計と負債合計の差額で修正純資産を計算します。

 

※貸借対照表を構成する科目のほとんどが、現金及び借入金であり、退職金支給規定がない様な会社は、簡便的に決算書の純資産をそのまま使用してみてください。

 

 ✔ 利益

続いて、修正純資産に加算する利益ですが、税引後利益又は、税引前利益から臨時的要因を除いた経常利益を使用すると良いでしょう。

経済産業省が公表している、『中小M&Aガイドライン』の参考資料に、「税引後利益又は経常利益等」と記載されていますので、併せて参考にして下さい。

引用元:経済産業省中小M&Aガイドライン

 

また、どの時点の利益を用いるかですが、自社の通常稼ぎ出すことが出来る「正常な利益」を用いる事が一般的です。

そのため、過去数年の利益、直前事業年度の利益や進行期の予想利益を見比べて、決定すると良いでしょう。

例えば、新型コロナウイルスの影響により、業績が一時的に悪化している場合は、直近3-5事業年度の平均利益を用いるのも方法の一つです。

 

また、役員の保険料、多額の役員報酬や通常必要とされる額を超える接待交際費など、会社を売却した後に必要ないと思われる費用がある場合には、その金額を利益に調整する事も考えられます。

会社の価値をプラスする調整であるため、一度洗い出しをしてみてはいかがでしょうか。

なお、役員報酬の妥当額については当ブログを参照ください。

 

 ✔ 年数

最後に、利益にかける年数ですが、『中小M&Aガイドライン』の参考資料にでも「年数(通常は1年~3年)は事例ごとに異なり、交渉によって決まるケースが多い。」と記載されており、判断が難しい箇所になります。

引用元:経済産業省中小M&Aガイドライン

通常は、会社が属している業界の市場動向や会社の成長性などを加味し決定しますが、目安として1-3年分というのを覚えて置き、1年分であれば株式価値が○○円で3年分であれば○○円と、それぞれ計算してみても良いでしょう。

 

まとめ 『修正簿価純資産に数年分の利益を加算する方法』

Step1:貸借対照表の資産・負債を一部修正し、修正純資産を計算する

Step2:自社の正常利益を把握する

Step3:修正純資産に、利益に年数(1-3年)を掛けた数値を加算し、株主価値を計算する

 

『類似会社比較法(マルチプル法)・・・中級』

 

類似会社比較法とは、対象会社と営む事業等が類似する上場会社の評価倍率(マルチプル)をもとに、対象会社の価値を算定する方法です。

当該方法で価値を算出する際に用いられる指標として、『EBITDA』・『EBIT』・『PER』・『PBR』等がありますが、ここでは、より一般的である『EBITDA』を用いた『EV/EBITDA倍率』について解説します。

 

計算式

企業価値 = (自社の)EBITDA(①) × (類似する上場会社の)EV/EBITDA倍率(②)

株主価値(売却価額) = 企業価値 ― 純有利子負債(有利子負債 – 現預金)(③)

 

手順

 ✔ (自社の)EBITDA

EBITDA(Earnings Before Interest tax Depreciation and Amortization)とは、税引後利益に支払利息・

税金・償却費を加算した利益です。

 

ここでは簡便的に、支払利息や税金が控除される前の利益である営業利益に減価償却費を加算して計算してみてください。

EBITDA = 営業利益 + 減価償却費

 

 ✔ (類似する上場会社の)EV/EBITDA倍率

EV/EBITDA倍率は、企業価値をEBITDAによって、何年で回収できるかを示す指標です。

例えばEV/EBITDA倍率が10倍であれば、10年かけて企業価値を回収する事を示しています。

 

一般的に、EV/EBITDA倍率は8-10倍程度と言われていますが、業種やその時点の市況によって異なってくるため、同様の業種の会社の平均値や中央値を使用する事となります。

ただし、類似する上場会社の選定と使用する倍率の決定は、専門的知識が必要になるため、今回は簡易的に、8-10倍を用いて計算してみてください。

 

 ✔ 純有利子負債(有利子負債 – 現預金)

上記で説明した①と②を掛け合わせて、算出された価値が企業価値になります。

企業価値とは、企業全体の価値を示しますが、売却価格を示す株主価値とは異なるため、純有利子負債を調整して企業価値から株主価値に変換する必要があります。

 

純有利子負債とは、有利子負債から現預金を控除した金額です。有利子負債には借入金、社債や退職給付引当金などが含まれます。

純有利子負債 = 有利子負債(借入金・社債・退職給付引当金) ― 現預金

 

純有利子負債を求めたら、企業価値から控除し株主価値(売却価格)を計算してみてください。

 

まとめ 『類似会社比較法(マルチプル)』

Step1:営業利益 と 減価償却費 を足しEBITDAを計算する

Step2: EBITDA に EV/EBITDA倍率(8-10倍)を掛け企業価値を計算する

Step3:企業価値から純有利子負債を差し引いて株主価値を計算する

【まとめ】

いかがでしたでしょうか。

 

今回は「中小企業経営者のための企業価値評価(入門編)」として、自社の企業価値を簡便的に算定するための手法をまとめてみました。

 

まだ、会社を売却するまで検討されていない方も、一度自分の会社はいくらぐらいの価値があるかを計算して見てはどうでしょうか。

今後の経営や出資の受け入れ時等に、参考になると思います。

 

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