新しく人を採用したい場合、

役員として採用すべきか、従業員として採用すべきか悩まれている経営者の方も多いと思います。

 

今回は税金面・社会保険面・登記面・責任面からみた、役員vs従業員の違いを確認していきます。

 

【役員と従業員って何が違うの?】

役員とは、会社の機関※の一部であり、会社法上の役員は取締役・監査役・会計参与が該当します。

※会社の意思決定や 運営・管理を行う組織やその業務を行う立場にある者

 

つまり、役員は会社を運営している人です。

役員は会社との間で委任契約を結びます。

役員は株主総会決議で選ばれ、解任にあたっても株主総会決議で自由に解任できます。

※監査役の解任については特別決議

 

一方、従業員は会社との間で雇用契約を結び、会社に雇われている人です。

 

会社との関係で見たときに、

会社と役員は対等な立場である一方、会社と従業員は使用者と使用される側です。

そのため、会社と役員の委任契約は民法643条定められ、委任契約の解除は会社の自由です。

一方で、会社と従業員では従業員の立場が弱いため、上記のように自由に契約解除を行うことができません

そのため、労働者を守るための法律である労働基準法で厳しく定められています。

 

さて、こちらを踏まえたうえで

税金面・社会保険面、登記面からみた役員vs従業員をみていきましょう。

 

【税金面からみる、役員vs従業員】

税金面では、下記が大きく異なります。

役員報酬は、要件を満たさない限り損金不算入!

従業員の場合、従業員に支払った給与・賞与は税務上も経費計上=損金計上可能です。

一方で、役員に支払う給与の場合は定期同額給与や事前確定届出給与等の一定の要件を満たさない限り、税務上は経費計上=損金計上できません。

役員は会社の意思決定や 運営・管理を行う組織やその業務を行う立場にある者です。

従業員と違い、賞与支給の意思決定等は容易にできてしまいます。

そのため、税法では役員報酬を原則、損金不算入=税務上は経費に入れないとし、条件を満たした場合のみ損金計上を認めています。

 

役員報酬を損金にするためには、下記要件を満たすことが必要です。

役員報酬

⇒定期同額…毎月同額の役員報酬であることが必要

役員賞与

⇒事前確定届出給与…株主総会(職務の執行開始日)から1月を経過する日 or 事業年度の開始から4か月後のどちらか早い日に税務署に届出が必要

 

期末付近になって多額の利益が認められるからといって

期末前に役員賞与を出したとしても、上記要件を満たさないため税務上は経費として認められません。

利益調整のための役員報酬操作は認められない、ということです。

 

また、不当に高額な役員報酬も損金計上が認められなかった例があります。

このように、役員の場合は従業員と違い、ボーナスや給与を自由に支給することができません

💡税金面のポイント

✔役員になると、ボーナスや給与を自由に支給することができない!

(条件を満たさない限り、税務上の費用として認められないため。)

 

【社会保険面からみる、役員vs従業員】

会社との関係を見たときに役員は委任契約、従業員は雇用契約です。

この違いは社会保険の面からも違いが出てきます。

役員は労働基準法の適用対象外!

役員は委任契約であり、労働者ではないため、労働基準法の対象外です。

なお、執行役員は会社法上の役員ではないため、労災保険等の適用を受けることができます。

また、使用人兼務役員(取締役営業部長等)も従業員(労働者)としての性質があるため、労働基準法の対象となります。

 

また、労働保険、社会保険の観点からも下記のように異なります。

会社法上の役員 従業員

(執行役員・使用人兼務役員含む)

労災保険 ×
雇用保険 ×
社会保険

※非常勤役員は加入する必要なし

 

上記の通り、役員は雇用保険の適用を受けることができません。

そのため、失業手当を受け取ることができません。

なお、社会保険の金額は標準報酬月額によって異なりますので、役員か従業員かによって社会保険料の金額は変動しません。

💡社会保険面のポイント

✔役員になると、労働基準法、労災保険、雇用保険の適用を受けられない!

(例:失業手当は受け取れない)

 

【登記面からみる、役員vs従業員】

会社の役員は登記が必要!

取締役や監査役等の役員は、会社の意思決定や 運営・管理を行う組織やその業務を行う立場にある者であり、会社において重要な権限と責任を持ちます。

そのため、だれがいつまで役員の地位にあったかを対第三者に明確にする必要があるため、役員情報は会社の登記事項です。

そのため、新しく役員が選任・解任された等、役員が変更した場合には登記変更手続きを行う必要があります。

(資本金1億以下の場合は1万円、資本金1億超の場合は3万円の登録免許税が発生)

 

前述の通り、役員の選任・解任には株主総会決議+選任・解任後には登記が必要となるので、社員にくらべ手続きが煩雑です。

💡登記面のポイント

✔役員情報は会社の登記事項!

(役員は重要な権限と責任を持つので、第三者に明確にする必要がある)

✔役員の選任・解任には株主総会決議+上記登記変更が求められるため、従業員の入社・退社手続きに比べ煩雑

 

【責任面からみる、役員vs従業員】

善管注意義務と忠実義務

従業員が業務上で会社に損害を与えた場合、故意による違法行為を除き、従業員の損害賠償責任は制限されます。

一方、役員の場合、取締役等の役員は委任契約(民法643条)です。

会社が、会社の経営等一定の行為をすることを取締役等に委託する契約です。

(以降で記載する役員は、取締役を前提としています。)

 

このような委任契約は、民法644条で「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」とされています。

これを善管注意義務といい、取締役等の役員は委任契約の締結によりこちらの義務を負うことになります。

業務を任された人に職業や専門家としての能力、社会的地位などから考えて通常期待される注意義務をもって、業務を行ってくださいね、ということです。

この注意義務を怠った場合には、会社に対して損害賠償責任を負うことになります。

 

また、取締役は善管注意義務と同時に忠実義務「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない。」(会社法第355条)を負うとされています。

具体的に取締役には、利益相反行為の禁止と競業避止義務(会社法356条)があります。

会社と取締役との利益が相反する取引をしようとする場合や、競業取引を行う場合には株主総会決議での承認(取締役会設置会社では取締役会)が求められます。

なお、忠実義務とは、上記善管注意義務をより一層明確にした義務であると解されています。

 

善管注意義務・忠実義務に違反し、会社に損害を与えた場合は会社のみならず、株主に対して損害賠償責任を負うことになります。

また、悪意または重大な過失があった場合には、第三者(債権者等)に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法第429条)。

💡責任面のポイント

✔役員になると、様々な義務を負うため、株主や第三者から責任追及をされるリスクが!

 

 

【役員になると、デメリットばかり?】

さて、ここまで様々な面からみる役員vs従業員を見ていきました。

役員は責任が重たいので、デメリットが多いように感じられるかもしれません。

しかし、責任が重いことはメリットでもあります。

 

役員になることによるメリット

・営業面での外部的なメリット

 →役員になると登記されますので、他社にも決裁権限者とみなされることから信用が増し、営業がしやすくなるといったメリットあります。

 

・本人のモチベーションが上がる

 →役員は会社の意思決定や 運営・管理を行う組織やその業務を行う立場にある者です。上記責任面で挙げたリスクを負う分、本人のモチベーションが上がるといったメリットがあります。

 

・定年がない

 →従業員には定年がありますが、役員には定年がありません。

 

・いい人材を確保しやすい

 →通常の従業員ではなく役員として迎え入れることでモチベーションが上がるため、いい人材を確保しやすくなります。

  一方で、期待以上の成果が出ず解任したい場合には【登記面】で記載した通り手続が煩雑です。

  そのため、一定期間(3ヶ月程度)は社員期間を設けその後、役員登用という形式をとっている会社も多いです。

💡役員になるメリット

✔役員になると、営業面やモチベーション面でのメリットがある!

【まとめ】

いかがでしょうか。

今回は税金面・社会保険面・登記面・責任面からみた、役員vs従業員の違いを確認していきました。

 

Takeoffer会計事務所は会計処理から税務相談まで幅広いアドバイスを行っております。

何かありましたら、お気軽にご相談ください。