従業員へのインセンティブを与えるために、株式報酬としてストックオプションの付与を検討する企業が増えておりますが、生株を付与する場合との相違点について解説します。

 

 

 

生株とストックオプションの相違点

 

 

まず、生株は「株式そのもの」であるのに対し、ストックオプションは「将来、一定価格で株式を購入できる権利」です。

そのため、付与される側としては生株の方がストックオプションに比べて価値が高いと言えます。

また、ストックオプションはIPO後に一定期間在籍していないと権利行使できない、1年間に権利行使可能な数の上限がある等、様々な条件があります。

詳細は以下のブログにまとめておりますためご参照ください。

 

いつどうやって発行するの!?  ベンチャー企業がSO(ストックオプション)を発行する際に知っておきたい注意点

 0円で優秀な人材を確保できる!? ~スタートアップドリーム!?ストックオプションの基本を確認しよう!~

 

生株を付与する場合は、株主としての権利を付与されるため、経営の意思決定への参画や配当金を受け取る権利などが保証されます。

しかし、優秀な人材を確保するために安易に生株を付与することは慎重になるべきと言えます。

一旦、生株を付与した役員が期待されたパフォーマンスを発揮しない場合や退職した場合などにも、株主としての権利をそのまま保有し続けることになるリスクがある点に留意する必要があります。

(別途、株主間契約を結び、退職した場合には当初の取得価額で株式を返還する等契約を結ぶ等の対応は可能です。)

 

 

M&AやIPO時の取り扱い

生株の場合はM&AやIPOの際にも通常の株式として売却の機会が保証されておりますが、ストックオプションの場合は基本的には行使可能期間を上場後としているため、

IPOを断念してM&Aを実施した場合には消滅してしまうことになります。

上場前に多数の個人株主が増えることは、上場審査が長期化することや管理が煩雑となることや、

税制適格ストックオプションの場合は証券会社または金融機関等による保管・管理信託が適用要件に含まれており、実務的にはIPOが前提となっております。

なお、M&Aの際は買い手企業が売り手企業のストックオプションを買い取るケースや、

一旦ストックオプションを消滅させた後、買い手企業のストックオプションを付与することも可能です。

ストックオプションを付与された従業員からすると、M&Aの場合にキャピタルゲインを享受できないことが分かれば離職が進み、M&A後のリスク要因にもなり得るため、注意が必要です。

 

税務上の取り扱い

生株とストックオプションの税務上の取り扱いは以下の通りです。

・生株(譲渡制限株式)

生株(譲渡制限株式)の場合は、付与時には課税が生じませんが、譲渡制限解除時及び譲渡時にそれぞれ給与所得(譲渡制限を退任時に解除する場合は退職所得)及び譲渡所得として課税関係が発生します。

・ストックオプション(税制適格ストックオプション)

ストックオプション(税制適格ストックオプション)の場合は、付与時、権利行使時の課税関係は発生せず、権利行使により株式を取得後、株式の譲渡時のみに譲渡所得として課税関係が発生します。

 

インセンティブ面の相違

生株とストックオプションではインセンティブ面での効果にも相違があります。

・生株

生株の場合は、株主としての権利を既に保有しており、株価水準にかかわらず、株価を上昇させるインセンティブが働きます。

また、ストックオプションとは異なり失効することがないため、長期的に安定したインセンティブ効果が期待できます。

・ストックオプション

ストックオプションの場合は、権利行使価額以上に株価を上昇させなければならないため、相対的にインセンティブ効果は強いと言えます。

一方で、IPOが達成できなければ失効してしますケースもあり、生株と比較して不確実性が高く、インセンティブ効果が失われるリスクもあります。

 

まとめ

以下の表にて、今回のまとめを記載しております。

生株(譲渡制限株式) ストックオプション
内容 株式そのもの 将来、一定の価格で株式を買い取る権利
M&A時の取り扱い 買い手企業への売却 失効又は買い手企業による買い取り
IPO時の取り扱い 市場での売却が可能 権利行使後に一定価格で株式を購入、市場での売却が可能
付与時の課税 無し 無し
譲渡制限解除時/権利行使時の課税 給与所得(最大55%) 無し(税制適格の場合)
譲渡時の課税 譲渡所得(20%) 譲渡所得(20%)
インセンティブ効果 長期的に期待できる 業績次第では不安定

 

役員・従業員の立場ではストックオプションより生株を受け取る方が望ましいですが、

付与する側(オーナー)の立場からは生株の譲渡は、経営権の一部譲渡に他ならないため慎重に判断する必要があります。

また、役員・従業員の視点では、ストックオプションは実際に権利行使が可能となるか不確実であるため、別途適正な水準の報酬を受け取ることが適切です。

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