ストックオプション制度を活用し、優秀な人材を確保するベンチャー企業が増えております。

 

ストックオプションという名前は一般的になってきましたが、

具体的にどのような手続きを経て設計されるかについては難解な面もあり、広く一般に広まっているとは言い難いかと思います。

 

そこで今回は、ストックオプション設計時の留意点や導入の流れについて解説します。

 

ストックオプションの設計時の留意点

 

ストックオプション設計時の留意点は主に以下の3項目が挙げられます。

 

・発行限度枠に注意する

ストックオプション設計で最初に注意すべき点は、発行済株式総数に対する比率です。

上場を目指すベンチャー企業の場合、一般的には上場までの累計で発行済株式数の10%-15%以内を目安に設計するのが望ましいと言われており、それを超えるとIPO時に外部からの指摘や審査がより厳しくなります。

 

これは、ストックオプションの権利行使で同時期に多くの株が買われた場合、既存の株の価値が薄まり、既存株主が不利益を被ってしまうからです。

ストックオプションを初期で出し過ぎたことで資本政策が上手くいかなくなるケースが多く存在しますので、発行限度枠の設定を含めしっかりと制度設計をして付与する様にしましょう。

 

以下では著名なベンチャー企業のIPO時の潜在株式比率を記載しております。

メルカリの17.3%は突出して高いイレギュラーなケースと言えます。

会社名 上場年 潜在株式数 発行済株式総数 潜在株式比率
メルカリ 2018年 24,516,570株 141,688,392株 17.3%
フリー 2019年 6,144,900株 41,204,691株 14.9%
LINE 2016年 25,526,500株 174,992,000株 14.6%
Retty 2020年 1,495,384株 10,612,504株 14.1%
BASE 2019年 1,828,000株 18,822,000株 9.7%
ラクスル 2018年 1,832,800株 25,017,000株 7.3%
Appier 2021年 2,172,490株 90,771,490株 2.4%

引用元:各社「新規上場のための有価証券報告書(Ⅰの部)」

 

 

・権利行使可能になるまでの期間設定(べスティング)

 

ストックオプションを付与されてから実際に権利行使が可能になるまでに期間を設けることをベスティングといいます。

ベスティングは、優秀な人材を長期的に確保しておくために非常に大切な概念です。

ベスティングを設定しないと、優秀な人材が上場と共に株式を全部売却して去っていく可能性もあるので、上場を目指している場合は特に注意する必要があります。

また、税制適格要件にも、付与後2年間は行使できないという条件がありますので、税制適格にするためには、この条件は必ず入れましょう。

また、2年を経過した以降も、1年につき25%まで権利行使可能とするなど、優秀な人材が長期的に会社に留まることに対してメリットを感じるような設定にすると良いでしょう。

 

・税制適格ストックオプションとして設計する

ストックオプションの行使時に課税されないよう税制適格ストックオプションとして設計する必要があります。

なぜなら、税制適格ストックオプションは、「譲渡所得」となり、税率20%と低い税率で課税関係は終了する一方で、税制非適格ストックオプションは、一部が「給与所得」となり、税率は最高で55%と高い税率を課されます。

 

税制適格ストックオプションと税制非適格ストックオプションの比較は下表のとおりとなります。(無償ストックオプションを前提としております。)

 

種類

課税関係

発行時 行使時 売却時
税制適格 非課税 非課税 課税(譲渡所得)
税制非適格 非課税 課税(給与所得) 課税(譲渡所得)

 

こちらの通り、税制適格ストックオプションとして設計しなければ、新株予約権の行使時に給与課税が発生してしまうこととなります。(最大55%の給与所得)

ただし、適格要件を満たすことで、給与課税を課されないようにすることができます。

それでは次は、税制適格ストックオプションの要件を見ていきましょう。

 

税制適格ストックオプションの要件

・発行形態

無償ストックオプションとして発行することが必要です。

・譲渡制限

他社への譲渡を禁止する譲渡禁止規定が付されていることが必要です。

・年間行使限度額

権利行使者の年間の権利行使価額の合計が1200万円以下であることが必要です。

・行使価額

権利行使価額は付与時の株価の時価以上に設定することが必要です

・行使期間

権利行使期間には、ストックオプションの付与決議から2年後~10年後の8年間のみ行使可能という制限があります。

・付与対象者

付与対象者に対する要件は以下の2点です。

1.発行会社の取締役・執行役・使用人であること。(監査役、会計参与、会計監査人は除外されています。)

2.付与決議日において大口株主に該当しないこと(1/3以上の持ち分を持っているもの(大口株主)には割当が制限されています。)

 

以上の税制適格要件を以下の表にもまとめておりますためご参照ください。

 

適格要件 内容
発行形態 無償での発行
譲渡制限 ストックオプションの譲渡は禁止
行使価額の上限 年間の権利行使価額の合計が1200万円以下
行使価額 発行会社・その子会社の取締役・執行役・使用人・権利
行使期間 付与決議から2年後~10年後の8年間

 

ストックオプションの種類や発行時の留意点については過去の記事でもまとめておりますため、詳細についてはこちらも併せてご確認ください。

 

ストックオプションの導入手続きの流れ

ストックオプションを導入する際の基本的な手続きの流れは以下の通りです。

  • 募集事項の決定

募集事項を決定する際は株主総会の特別決議が必要となります。(会社法上の非公開会社を前提としております。)

決定が必要な募集事項は以下の通りです。

  • ストックオプションの内容と数量
  • 無償で発行する旨(無償発行の場合)
  • 払込金額
  • 割当日
  • 払込期日

 

 

  • 割当契約の締結・割当

 

 

会社と引受者との間で、ストックオプションを引き受ける割り当て契約を締結します。

割当契約書には、引受者が会社の発行するストックオプションを引き受ける旨や割り当てするストックオプションの数やその内容、1株の払込金額など含まれます。

 

 

  • 新株予約権原簿の作成と新株予約権の登記

 

 

会社は、ストックオプションを発行した日以後遅滞なく、新株予約権原簿を作成し、新株予約権の登記(割当日から2週間以内)を行う必要があります。

また、税制適格ストックオプションを発行した場合は、翌年の1月31日までに、本社所在地を管轄する税務署に「特定新株予約権の付与に関する調書」を提出する必要があります。提出を忘れてしまうと税制優遇措置の適用が受けられないことになるため、注意しましょう。

 

まとめ

ストックオプションは創業初期の段階でも、優秀な人材を確保するための手段として有用です。

一方、ストックオプションの設計や発行プロセスは複雑であり、様々な観点を加味し十分に考慮して発行するようにしてください。

Takeoffer会計事務所では、ストックオプションの設計を含め、幅広い会計・税務のアドバイスを行っております。

何かありましたらお気軽にご相談ください。