会社を設立した時、本店移転をした時、
住民税の均等割額の計算について不安に思われている方は多いのではないでしょうか?
今回は住民税の均等割額について、事例を使いながら解説していきます!
目次
住民税の均等割とは?
【住民税の均等割額とは?】
住民税は地方税と言われ、事務所や事業所などがある法人に課税される税金のことをいいます。
都道府県、市町村へ納める税金のため、法人税や地方法人税などの国に納める税金(国税)と違って地方税と言われています。
住民税は「法人税割」と「均等割」という二つで構成され、それぞれ以下のような特徴があります。
計算基礎 | 特徴 | |
法人税割 | 法人税額をもとに計算
法人税額×税率 |
赤字であれば法人税がかからないため、法人税額を基礎として計算される法人税割も発生しない |
均等割 | 資本金等の額、
従業者数に応じて計算 |
事業所等が所在することで課税される税金のため、赤字でも発生 |
【どこに納付するの?】
前述の通り、住民税は都道府県、市町村へ納める税金です。
基本的には所在する都道府県へ住民税(県民税)、市町村へ住民税(市町村民税)をそれぞれに納めることになりますが、
東京23区(特別区)の場合は特例があり、市町村民税に相当する額もあわせて、都民税として所管の都税事務所へ申告・納付を行うことになります。具体的にどう違うのか、例をつかって確認していきます。
設立2年目、事業所は本社のみ(年内に移転はない)、従業者5 0人以下、資本金1,000万円未満、赤字決算を前提とすると、以下のように異なります。
(例)
①本社が神奈川県川崎市の所在する場合
20,000円×12/12=20,000円 ⇒所管の県税事務所へ申告・納付
50,000円×12/12=50,000円 ⇒川崎市役所へ申告・納付
②本社が東京23区(特別区)内に所在する場合
70,000円×12/12=70,000円 ⇒所管の都税事務所へ申告・納付 |
このように事業所所在地によって納付先が異なりますので、ご注意ください。
【資本金等の額って?いつ時点の残高で判断?】
均等割額の判定に使用する「資本金等の額」とは、事業年度末日における下記①と②のいずれか大きい額を使用します。
①資本金額+資本準備金
②無償増資、無償減資等による欠損填補を調整後の金額
このうち、②の「無償増資、無償減資等による欠損填補」を行うことは殆どないと思いますので、「事業年度末日の資本金+資本準備金」で判断すると理解するといいでしょう。
よって期中に増資をした場合は、増資後の資本金+資本準備金残高で判断することになります。
なお、従業者数についても事業年度末日で判断することになります。
誤りやすい、月数按分の考え方
【「事業所等を有している月数」の考え方】
均等割額は、その区内に「事業所を有している月数」を用いて月割計算されます。
上記計算例にある「12/12」は、1年間=12か月のうち、12か月同区内に事業所を有しているため「12/12」となっています。
では法人を設立した場合や事業所の移転等、ひと月に満たない端数がある場合はどのように計算するのでしょうか?
この場合、「月数は暦に従って計算し、全部が1月に満たないときは1月とし、1月に満たない端数が生じるときは切り捨てる」とされています。(引用元:都民税の均等割申告書記載の手引)
分かりにくいな、と思う方がほとんどだと思いますので、この文章を分けて解説していきます。
<「月数は暦によって計算し、」とは?>
そもそも「暦によって計算」し、とはどのように計算することをいうのでしょうか。
こちらについては「国税通則法」という法律で以下のように定義されています。
(期間の計算及び期限の特例)
第十条 国税に関する法律において日、月又は年をもつて定める期間の計算は、次に定めるところによる。
一 期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるとき、又は国税に関する法律に別段の定めがあるときは、この限りでない。
二 期間を定めるのに月又は年をもつてしたときは、暦に従う。
三 前号の場合において、月又は年の始めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。
ただし、最後の月にその応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
ポイントは下線部分の「月又は年の始めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。」です。
これは4/15等の月の途中から期間を起算する場合、「起算日に応当する日の前日」、つまり5/14、6/14、7/14・・・と計算していくことを示しています。
1月に満たない端数切捨てと聞くと、端数が出ている月を切り捨て(4/15から4/30の15日を切り捨て)、5/31、6/30、7/31・・・と考える方が多いですが、法律の考え方は少し異なっています。
この考え方の違いが、設立時や移転時に大きく影響してくるので必ず理解しておきましょう!
<「全部が1月に満たないときは1月とし、1月に満たない端数が生じるときは切り捨てる」とは?>
「暦によって計算」した結果、1月に満たない端数が発生した場合は切り捨てることになりますが、月数合計額が1月に満たない場合は1月と考えることを示しています。
例えば2/15設立・3/31期末日の場合は、2/15~3/14の1月、端数17日⇒端数を切り捨てて「1月」と考えますが、3/15設立・3/31期末日の場合は月数合計が1月に満たないため、「1月」と考えます。
【①法人を設立した場合の均等割額は?】
上記の「月数は暦によって計算し、」「全部が1月に満たないときは1月とし、1月に満たない端数が生じるときは切り捨てる」を踏まえると、
設立日:4/15、期末日:3/31とした場合に事業所等を有している月数を「暦によって計算」すると、4/15~3/14までの11か月と端数17日となり、
1月に満たない端数は切り捨てるため、「11か月」となり、均等割額は70,000円×11/12=64,100円となります。
なお、設立日を月初(例:4/1)とすると1月に満たない端数がないため「12か月」となり、均等割額が増加し、70,000円×12/12=70,000円となります。
設立日が1日異なるだけで5,900円の節税になりますので、法人を設立される場合は設立日についても気にしてみましょう。
【②本店を移転した場合の均等割額は?】
では本店を移転した場合の均等割額はどうなるのでしょうか。
これは移転先がどこか、移転日がいつかによって異なってきます!
<1.移転先が同一区内の場合とそれ以外の場合>
事業年度の途中に事業所を移転した場合、移転前後で同一区内かどうかによって考え方が異なります。
ここでも、設立2年目、事業所は本社のみ(年内に移転はない)、従業者5 0人以下、資本金1,000万円未満、赤字決算を前提として確認してみましょう。
なお、移転及び旧本店の廃止は同日に行われたものと仮定しています。
考え方 | (例)8/1に本店移転した場合 | |
同一区内
(A区からA区へ移転) |
その区内に事業所を有していることに変更はないため、区内に事業所が12月所在し続けていると考える | A区に12月事業所を有しているため、
70,000×12/12=70,000 |
同一区外
(A区からB区へ移転) |
A区に事業所を有していた期間、B区に事業所を有していた期間で分けて月数按分 | A区に4/1~8/1の4月、
B区に8/1~3/31の8月有しているため、 A区分 70,000×4/12=23,300※ B区分 70,000×8/12=46,600※
A区分+B区分=69,900円 ※:税額は100円未満切り捨て |
このように、移転前後で移転先が同一区内かどうかによって、考え方が異なってきます。
なお、同一区内かどうかの判断は、都税事務所の管轄内かどうかではなく、市区町村単位での判断になるためご注意ください。
例えば中央区から江戸川区への移転という中央都税事務所の同一管轄内での移転でも、中央区と江戸川区は同一区内ではないため、同一区外と考えます。
<2.移転日が月初の場合とそれ以外の日付の場合>
では、上記移転日が月初の場合、それ以外の場合では計算がどのように変わるのでしょうか?
同一区内の移転の場合は、上記の通り移転後もその区内に事業所を有していることに変更はないと考えます。そのため、移転日がいつであろうと計算は変わりません。
では、同一区外への移転の場合はどう異なるのでしょうか?確認してみましょう。
A区からB区への移転日 | 月数の考え方 | 均等割額 |
移転日 8/1
|
A区:4/1~8/1
⇒4月(∵4月+1日) B区:8/1~3/31 ⇒8月 |
A区分 70,000×4/12=23,300※
B区分 70,000×8/12=46,600※
A区分+B区分=69,900円 ※:税額は100円未満切り捨て |
移転日 8/15
|
A区:4/1~8/15
⇒4月(∵4月+15日) B区:8/15~3/31 ⇒7月(∵7月+17日) |
A区分 70,000×4/12=23,300※
B区分 70,000×7/12=40,800※
A区分+B区分=64,100円 ※:税額は100円未満切り捨て |
移転日 8/31 | A区:4/1~8/31
⇒5月 B区:8/31~3/31 ⇒7月 |
A区分 70,000×5/12=29,100※
B区分 70,000×7/12=40,800※
A区分+B区分=69,900円 ※:税額は100円未満切り捨て |
月数計算のポイントは「起算日に応当する日の前日」です。
移転日が8/15の場合はA区分について、起算日(=4/1から起算のため1日)に応当する日の前日=月末※をポイントに4/30、5/31、6/31、7/31の4月+8/1の端数1日と考えます。
※:最後の月にその応当する日がないときは、その月の末日(国税通則法10条3号但し書き参照)
B区分については、起算日(=8/15から起算のため15日)に応当する日の前日(=14日)をポイントに9/14、10/14、11/14、12/14、1/14、2/14、3/14の7月+3/15~3/31の端数17日と考えます。
よって、移転日を月初でない日にすることで均等割額が節約できます。
設立日同様、移転日についても日付を気にしてみましょう。
【③設立年度に本店移転をした場合はどうなるの?】
では設立年度に本店移転(同一区外)をした場合はどうなるのでしょうか?①と②が同年度に起きた場合ですね。
設立日:4/15、A区からB区へ本店移転日:8/15、事業所は本社のみ(年内に移転はない)、従業者5 0人以下、資本金1,000万円未満、赤字決算を前提として確認してみましょう。
月数の考え方 | 均等割額 | |
A区分 | 4/15~8/15
⇒4月(∵4月+1日) |
70,000×4/12=23,300※
※:税額は100円未満切り捨て |
B区分 | 8/15~3/31
⇒7月(∵7月+17日) |
70,000×7/12=40,800※
※:税額は100円未満切り捨て |
A区分+B区分 | 23,300+40,800=64,100 |
端数が出ている月を切り捨てる=A区分5月~7月の3月、B区分9月~3月の7月と考えるのではなく、「起算日に応当する日の前日」をポイントに計算するようにしましょう。
そのため、A区分について、起算日(=4/15から起算のため15日)に応当する日の前日(=14日)をポイントに、5/14、6/14、7/14、8/14の4月+8/1の端数1日と考えます。
B区分については、起算日(=8/15から起算のため15日)に応当する日の前日(=14日)をポイントに9/14、10/14、11/14、12/14、1/14、2/14、3/14の7月+3/15~3/31の端数17日と考えます。
【おまけ】法人税割と均等割は相殺できる?
法人は中間納付といって前年の確定税額分の約半分を期中に前払いしなければいけません。期末日到来後、前期よりも所得額が減少している等、その期の確定税額が中間納付額よりも少なかった場合には前払いしすぎている税額分は還付されます。
住民税に話を戻します。住民税は前述のとおり法人税割と均等割によって構成され、
法人税割は法人税額をもとに計算されるため所得が赤字の場合は発生せず、均等割は事業所等が所在することにより発生する税額のため赤字でも発生することが特徴でしたね。
そのため、前期の所得より当期の所得等が減少したこと等により、税額が還付側になった場合、住民税を法人税割・均等割に分けて示すと以下のようになっています。
例)11/30 中間納付時に法人税割200,000円、均等割35,000円を納付。
3/31 所得額確定。当期は赤字のため法人税額は0円となった。
確定した住民税額は法人税割0円、均等割70,000円。
※簡便的に、法人税・事業税については省略しています。
中間納付 | 確定税額 | 納付すべき税額
(△は還付税額) |
|
法人税割 | 200,000円 | 0円 | △200,000円 |
均等割 | 35,000円 | 70,000円 | 35,000円 |
合計額 | 235,000円 | 70,000円 | △165,000円 |
この場合、均等割額の支払いについては以下①と②、どちらになるでしょうか?
①均等割額35,000円を支払い、後日200,000円の還付を受けとる
②均等割額を支払わず、後日165,000円の還付を受けとる
答えは、①,②どちらをとってもOKで、①と②で会社が自由に選ぶことができます!
ただし、市区町村によっては①の方法を推奨している場合もありますので、
事業所所在地の管轄県税事務所等に確認されることをおすすめします。
【まとめ】
いかがでしたでしょうか?
今回は住民税で誤りやすい月数按分の考え方と、住民税に関連し迷いやすい項目について解説しました。
Takeoffer会計事務所は会計処理から税務相談まで幅広いアドバイスを行っております。
何かありましたら、お気軽にご相談ください。