近年、新型コロナウイルス感染拡大の経営への影響が大きかった旅行代理店のJTB、飲食業界のカッパ・クリエイトやチムニー、航空業界のスカイマークなどが減資を実施して資本金を1億円に設定しております。これは資本金が1億円以下の企業は税負担が軽くなることからです。
会社の資本金は株主から払い込まれた出資額を意味します。資本金は一般的には会社の規模を判断する際に参照されるため、資本金が大きい企業ほど規模が大きく信用力の高い企業とみなされるケースが多いです。
今回は、減資することによるメリット・デメリットについて解説します。
減資のメリット
資本金が1億円以下の中小法人には税務面で優遇された制度が数多くあります。
以下では資本金を1億円以下に減資することによるメリットをご紹介します。
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繰越欠損金の控除可能額
繰越欠損金とは、前期以前の最大10年間に生じた赤字額を意味します。この繰越欠損金は当期の所得から減額することができますが、資本金が1億円超の企業は限度額が「所得の50%」までに制限されます。一方で、資本金が1億円以下の中小法人は「所得の全額」まで控除が可能です。
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軽減税率
法人税率は23.2%ですが、資本金が1億円以下の中小法人は年間800万円までの所得には軽減税率の15%が適用されます。
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欠損金の繰戻還付
欠損金が生じた場合には、翌期の所得から控除が可能ですが、翌期以降の経営も厳しく、所得が生じない場合には控除することができません。
資本金が1億円以下の中小法人は、欠損金が生じた年度の前年度の所得から控除をすることが可能であり、前期に納めた法人税から欠損金相当の金額の還付を受けることが可能です。
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交際費
資本金が1億円超の場合は、接待に要した飲食費等の50%までしか経費として認められませんが、資本金が1億円以下の中小法人は、年間800万円までの金額は全額経費として認められます。
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少額減価償却資産の特例
資本金が1億円以下の中小法人は、取得価額が30万円未満の固定資産は、取得した年度に全額償却を行うことが可能です。(限度額:年間300万円)
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外形標準課税の対象外
外形標準課税とは、資本金が1億円超の法人の所得額、付加価値額、資本金の額に対して課税される制度になります。所得が生じていない場合にも、資本金に対して課税されるため、赤字でも税負担が生じることになります。
資本金が1億円以下の中小法人は、この制度の対象外となります。
減資のデメリット
一方で、資本金を1億円以下に減資することによるデメリットは次のとおりです。
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企業の信用力の低下
売上高や利益の金額を外部に公開しない未上場企業の場合、資本金の金額が会社の規模を示す唯一の指標となります。そのため、資本金の額が小さくなることで、外部への信用力が低下することがあります。
この点については、減資後の資本金を資本準備金に振替え、ホームページ上の資本金額は資本準備金を含むという形で開示することで、信用力低下のイメージを軽減することも可能かと思います。
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手続が煩雑
創業者以外に多数の株主が存在する会社であれば、各株主からの同意を得る必要があり、減資には原則として株主総会の特別決議が求められます。
また、官報での公告、債権者への通知等を行う必要があるため、手続きに時間を要してしまうことがデメリットとして考えられます。
まとめ
今回は資本金1億円以下への減資のメリット・デメリットについて解説しました。
減資は株主や他の利害関係者から同意が得られれば、税務面でのメリットは多く、積極的に検討するべきであると思います。
以下は今回の要点になります。
減資のメリット | 減資のデメリット |
・繰越欠損金の控除(50%→全額控除)
・軽減税率(23.2%→15%) ・欠損金の繰戻還付(前期所得から還付可) ・交際費(年800万円までの損金算入) ・少額減価償却資産の特例 ・外形標準課税の対象外 |
・信用力の低下
・手続が煩雑
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資本金を1億円にすることで税務上の中小企業になることができますが、会社法では資本金5億円以上(又は負債の部の合計額200億円以上)の会社が大会社と区分されます。
資本金5億円以上の場合は会社法監査の対象となり、上場準備会社以外でも監査法人による会計監査が必要となりますため、増資を検討する場合は留意すべきです。
Takeoffer会計事務所では、幅広い会計・税務のアドバイスを行っております。
何かありましたらお気軽にご相談ください。