多様な働き方が認められるようになってきた昨今、会社員を辞めて、個人事業主として働く方も増えてきているかと思います。
そこで今回は、個人事業主として開業する場合に必要な手続きと、個人事業主になることへのメリット・デメリットについて解説したいと思います。

 

【個人事業主として開業する場合に必要な手続きとは】

今まで会社員として勤めていた方が個人事業主として開業する場合、どのような手続きが必要になるかについて解説したいと思います。必要な手続きは大きく分けて3つあります。

①税務署へ届出書の提出
②社会保険関係の手続き
③確定申告

それでは1つずつ具体的にみていきましょう。

①税務署へ届出書の提出
個人事業主として開業する場合、以下の届出書を納税地の所轄税務署へ提出する必要があります。

個人事業主の開業・廃業等届出書
個人事業主として事業を開始したことを税務署へお知らせするものです。提出し忘れても罰則等はありませんが、原則として事業開始後1か月以内に提出することとなっています。

所得税の青色申告書承認申請書
開業日から2か月以内に提出する必要があります。青色申告書承認申請書を提出する主なメリットは、下記のとおりです。
・最大で65万円の所得控除を受けることができる。
・赤字の場合、損失を翌期以降(3年間)に繰り越せるため、翌期黒字だとしても前年の赤字額を所得から控除することで、所得税の支払を抑えることができる。
・生計を共にする配偶者および親族を従業員としたい場合に、その給与額を経費として計上できる(別途、【青色事業専従者給与に関する届出書】を提出する必要があります)。

適格請求書発行事業者の登録申請書
消費税についてインボイスの登録を行う場合には提出する必要があります。

 

②社会保険関係の手続き
今まで会社員だった方は会社の社会保険に加入していたかと思います。個人事業主になると会社の社会保険からは脱退することとなりますので、新たに国民健康保険と国民年金への加入が必要となります。

国民健康保険への加入
会社を退職してから14日以内に加入手続きを行う必要があります。手続きは、住所地の市区町村の国民健康保険担当課にて行って下さい。また、現在の会社で入っている健康保険に引き続き加入することができる「任意継続」という方法もあります。ただし、任意継続できる期間は2年間で、退職日の翌日から20日以内に手続きを行う必要があります。
一般的には、国民健康保険に加入する方が多いですが、扶養家族がいる場合には、任意継続を選択されたほうがお得になる可能性もありますので、ご検討ください。任意継続を選択する場合の手続きについては、会社が所属する健康保険組合または健康保険協会にてご確認下さい。なお、任意継続をした場合、従来の会社負担分を含めてご自身で健康保険料を負担する形となります。

国民年金への加入
会社を退職してから14日以内に住所地の市区町村の役所にて手続きを行ってください。国民健康保険に加入する場合には、国民年金の手続きも併せて行っていただくとスムーズかと思います。必要書類については事前に窓口にお問い合わせください。

 

③確定申告
個人事業主になると、毎年3月15日までに確定申告を行う必要があります。確定申告に備えるために、以下についてご準備いただければと思います。
・事業に関連する領収書・請求書は保管しておく。
・事業用の口座として、新たな口座を開設する。

  必須ではありませんが、個人用と事業用で口座を分けたほうが、事業に係るお金の流れが明確になります。
・適格請求書発行事業者を選択するかどうかの検討を行う(インボイス制度の導入)。
  売上の規模や、取引先に課税事業者がいるかなどによって判断します。
・利益状況に応じて、利用可能な節税対策を検討する。
  小規模共済、経営セーフティ共済、iDeCoなどの節税対策もあるので、必要に応じて検討していただければと思います。

【個人事業主になった場合のメリットとは】


個人事業主として開業するメリットについて解説したいと思います。

①自分のライフスタイルに合った自由な働き方が実現できる
個人事業主になると、委託された業務を契約通り遂行できるなら、自分の好きな時間や場所で働くことができます。ワークライフバランスを重視した働き方が実現でき、また会社よりも人間関係をコントロールしやすいため、自分にとってより働きやすい環境を構築することができると思います。

②自分の能力を発揮しながら働くことができ、能力次第で収入が増える
仕事の内容について自分で選ぶことができます。会社で働いていると、ときには希望の仕事以外の仕事も担当しなければならないこともありますが、個人事業主になると、自分が得意な案件や自分の希望する仕事のみを行うことができます。また、個人事業主の場合はクライアントから直接報酬が支払われるため、自分の能力や努力次第で収入が増えることも期待できます。

③節税対策として経費を計上できる
個人事業主の場合、事業にかかった経費を計上することで納税負担を軽くすることができます。たとえば業務に使用するパソコンなどの消耗品や、クライアントと打ち合わせをする場合の交通費や飲食費、事務所に利用分に応じた地代家賃等、事業に関係するものであれば、経費として計上することができます。

③定年がない
会社員であれば一定の年齢に達したら定年退職となりますが、個人事業主の場合は定年がありませんので、自分が働きたい年齢まで働くことができます。

 

【個人事業主になった場合のデメリットとは】

個人事業主として開業するデメリットについて解説したいと思います。

①労働者を守る制度が適用されない
個人事業主の場合、労災保険や雇用保険への加入は基本的に認められていません。よって、個人事業主が業務上の事由や通勤によって負傷した場合なども、労災給付を受け取ることができません。また、万が一仕事がなくなり収入が途絶えてしまった場合にも、失業保険を受け取ることはできません。

②将来受給できる年金額が会社員と比べると低い。また、社会保険料の負担が重くなる
個人事業主は厚生年金保険の加入がないため、国民年金のみの加入となります。よって、会社員と比べると、将来受給できる年金額に差額が生じることとなります。また会社員は、社会保険料の半分は会社が負担してくれるのに対し、個人事業主は全額自己負担となるため、社会保険料の負担が会社員に比べると重くなります。

③収入が不安定
会社員であれば基本的には毎月安定した給料を受け取ることができますが、個人事業主の場合には、仕事が急に減ってしまったり、病気で仕事ができなくなってしまったりすると、その分収入が下がり、毎月安定した収入を得ることができなくなります。

④事務手続きの増加
個人事業主は自分で確定申告を行う必要があります。また、確定申告によって所得税や消費税などの各種税金の納付を期限までに必ず行う必要があります。同様に社会保険料や住民税などについても納付書が自宅などに送付されるため、自分で納付手続きを行う必要があります。納付期限を過ぎると延滞税などがかかるため、必ず納付期限までにこれらの手続きを行う必要があります。

【まとめ】

いかがでしたでしょうか。今回は個人事業主として開業するために必要な手続きと、メリット・デメリットについて解説しました。開業の手続きは煩雑なものではないため、開業自体のハードルはそこまで高くない一方で、メリット・デメリットがありますので、そちらを考慮した上でじっくり検討していただくのがよいかと思います。
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