アルバイトをする高校生や大学生などにとって、税金や社会保険料の課税がはじまる「年収の壁」は気になるポイントかと思います。特に令和7年税制改正により、扶養控除や勤労学生控除の所得要件が引き上げられたため、これまでの「103万円・130万円の壁」の考え方が一部変化しています。
バイト先で稼いだ金額が年収の壁を1円でも超えると、自身の所得税だけでなく、親など扶養者の扶養範囲から外れてしまうため、世帯の手取り収入も減ってしまいます。
ここでは、130万円や150万円や160万円などの年収の壁とは何か、またもし年収の壁を超えて働きたい場合、どの程度働けば世帯全体でメリットを享受できるか解説します。
年収の壁の概要
年収の壁は、3つあります。
① 所得税、住民税の壁(123万円、150万円、160万円):所得控除の一つである扶養控除の適用できるボーダー
※同じく100万円(地域によっては93万円〜)を超えた場合は、翌年の住民税もかかるので注意が必要です。
※令和7年税制改正で扶養控除・勤労学生控除の適用要件の変更により、従来の「103万円」や「130万円」というラインが見直されました。123万円の壁は扶養控除をとれるボーダー、150万円の壁は特定親族特別控除をとれる際に親側に所得税が発生するボーダー、160万円の壁は、子自身の所得税が発生するボーダーです(詳細は後述)。
② 社会保険の壁(130万円):社会保険(国民年金保険・国民健康保険)への加入義務のボーダー
③ 国民年金保険の壁(194万円):学生納付特例制度適用のボーダー(国民年金保険は20歳から納付)
年収の計算の仕方
年収の計算期間はその年の1月1日〜12月31日までの1年間です。
複数のバイト先から収入を得ている場合、すべてのバイト先の1月1日~12月31日までの収入の合計額で計算します。なお、手取り額ではなく、額面額となることに注意しましょう。
また、例えば、バイト先の給料が月末締め翌月15日払いの場合は、12月に働いた分の給料は1月15日に支払われるため、翌年の収入に合算されます。そのため、この場合の1年間の収入は、前年の12月分の給料(1月15日支払)〜その年の11月分(12月15日支払)で計算されます。
年収の壁(所得税と住民税)
扶養控除・特定親族特別控除
扶養控除及び特定親族特別控除とは、所得税や住民税を計算する場合に、所得控除として一定の額を控除できる制度です。
その年の12月31日において、
- 扶養親族(16歳以上19歳未満かつ給与収入が123万円以下):親の収入から扶養控除38万円が控除可能
- 特定扶養親族(19歳以上23歳未満かつ給与収入が123万円以下):親の収入から扶養控除63万円が控除可能
- 特定親族(19歳以上23歳未満かつ給与収入が123万円超188万円以下):親の収入から特定親族特別控除額(3万円~63万円)を子の所得に応じて逓減的に控除可能
そのため、子の給与収入が123万円を超過する場合でも、親御さんの収入によっては、特定親族特別控除が適用されます。ただし、子の給与収入が188万円を超過すると控除は適用外となります。この場合、控除額がなくなることによって増える税額は、控除額(3万円~63万円)×親御さんの「所得税率+住民税率」です。
勤労学生控除
子は、自身が学生の場合は、勤労学生控除を受けられるため、子自身の給与所得が160万円以下(子の基礎控除95万+給与所得控除65万)であれば、子自身での所得税は発生しません。
なお、子の給与所得が150万円以内(特定親族特別控除を適用するための子の所得要件=85万+給与所得控除65万)であれば、前述の通り親側は特定親族特別控除を満額の63万円が控除可能なため、所得税は発生しません。
※なお、住民税は令和8年から改正が予定されていますが、現時点では勤労学生控除を加味すると124万円超で発生します(住民税は、未成年であれば204.4万円未満は非課税です)。
※均等割は、年収93万円超で発生します。
※勤労学生控除を受けるには、一定の基準があります。詳しくは国税庁HPをご覧ください。
よって、扶養親族の給与収入は123万円以下または160万円以下に抑えることで、親と子の合算した税額は抑えられますが、それを超過する場合には、収入額自体を上げられるだけ上げることが、世帯全体の所得増加に繋がります。
年収の壁(社会保険料)
学生アルバイトでも、1週間および1カ月間の所定労働時間が
- 正社員の4分の3以上の場合:年収を問わず勤務先で社会保険の被保険者となります。
- 正社員の4分の3未満かつ年収130万以上の場合(※):自身で国民健康保険・国民年金へ加入(国民年金は後述の学生納付特例制度利用可)する必要があります。
※一時的に130万を超えてしまった場合は引き続き親の社会保険の扶養に入れることもあります。(参考:「被扶養者の収入確認に当たっての「一時的な収入変動」に係る事業主の証明書 」) - 正社員の4分の3未満かつ年収130万円未満の場合:親の社会保険の扶養に入れるので学生自身の社会保険の支払いはありません。
なお、上記に該当しない場合でも「休学中の学生」や「定時制の学生」は条件によって社会保険の加入義務が発生します。
ただし、お子さんご自身で社会保険に加入となった場合、自身での社会保険料負担は発生しますが、自身が将来受給できる年金額を積み増すこととなり、一概にデメリットばかりが生じることとはなりません。
※扶養者の数に関わらず、社会保険料は一定であり、親御さん側の社会保険料額への影響はありません。
年収の壁(国民年金保険・国民健康保険)
通常は、年収130万円を超えると自身で国民年金保険・国民健康保険への加入が必要となりますが、令和5年10月以降は、一時的な収入増であることを事業主側が証明(年収の壁・支援強化パッケージを利用)することで、引き続き親の扶養に入り続けることが可能となりました。
また、20歳になったときから国民年金保険料を支払う必要がありますが、扶養親族がいない学生の場合、前年の給与収入が194万円以内かつ学生であることを証明し申請をすれば「学生納付特例制度」を利用することができます。「学生納付特例制度」は、申請により保険料の納付が猶予され社会人になってから追納(後払い)できる制度のため、国民年金を払うこと自体に変わりはありません。
※「学生納付特例制度」の詳細は、日本年金機構の以下ページをご覧ください。
https://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/menjo/20150514.html
税金を納める仕組み~年末調整と確定申告
年末調整:バイト先が税金を納める
通常、企業は月ごとに源泉徴収した所得税額を年末に精算し(=年末調整)、源泉所得税として国に納付します。バイト先が源泉徴収と年末調整を行ってくれる場合は、自身で税金を納める必要はありません。
また、1月~12月の給与収入が160万円以下の場合、本来納税は不要のため、年末調整により源泉徴収された税額がすべて戻ってきます(=還付)。
確定申告:自身で税金を納める
例えば、複数のバイト先で収入を得ている場合は、メインのバイト先1社でしか年末調整を行うことができないため、他のバイト先を含めた税額精算を行うため、自身で確定申告を行う必要があります。その際、源泉徴収された所得税分が確定年税額よりも多い場合は還付、少ない場合は納付をします。
1月~12月の給与収入が160万円以下の場合は、本来納税は不要のため、年末調整と同様、源泉徴収された税額がすべて戻ってきます(=還付)。また、1年の途中でバイトをやめた場合には、確定申告を行うことで税金還付を受けられるケースが多くあります。
その他、源泉徴収については、こちらで詳しく説明しておりますのでご参照ください。
(参考ブログ:「源泉徴収と確定申告の関係について」)
まとめ
今回は学生バイトの税金や社会保険料について解説しました。
年収の壁を少し超える場合は年収の壁を超えないように調整した方が良いですが、超えることが明らかな場合には、123万円、150万円、160万円などを意識することなく、世帯全体(親御さんと子供を合算)の収入額を増やすことが、有用となります。
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