スタートアップにとって資金繰りは最重要課題のうちの1つです。

今回は第三者から出資により資金調達を受ける際に避けては通れない希薄化(ダイリューション)と創業時株主構成の重要性、調達後の管理コスト等について解説します。

希薄化(ダイリューション)とは

第三者割当増資等の場合、発行済株式総数が増加する一方で既存株主の持株数は変化しないため、既存株主の持株数は低下します。また、1株当たりの価値は時価総額÷発行済株式総数で求められます。そのため、資金調達前後で時価総額が一定の場合には発行済株式総数が増加すると1株あたりの価値は低下します。これを資金調達による希薄化(ダイリューション)といいます。

実際に、資金調達によりどのように希薄化が生じるのか確認しましょう。ここでは既存株主の希薄化について見ていきます。

⑴創業 

タロウさんはITベンチャーを設立。1株を100円とし、資本金として100万円を払い込みました。この時点でタロウさんの持株比率は100%です。

⑵シード期

1年後、プロトタイプの製品が完成し、PoCの結果、多くの需要が見込めました。ところがユーザーを集める広告費や営業担当を雇用する運転資金が1億円足りません。そこでタロウさんはベンチャーキャピタルから資金調達をうけることにしました。この時点で時価総額を算出したところ、時価総額は10億円でした。
その後、無事にVCのリンゴキャピタルから1億円の資金を調達することができました。
タロウさんの持株数は一定です。そのため、この時点でタロウさんの持株比率は100%から約91%に下がりました。

⑶シリーズA

1年後、正式にリリースした製品は順調にユーザーを伸ばし事業も好調です。タロウさんは事業の成長には追加機能の開発や開発人材の採用、CFOやCTO等の重要人材の採用には2億円の資金が必要と考えます。この時点で時価総額を算出したところ、時価総額は22億円でした。
その後、無事にリンゴキャピタルと、事業シナジーがあるバナナ株式会社から各1億円(合計2億円)の資金を調達することができました。
タロウさんの持株数は一定です。そのため、この時点でタロウさんの持株比率は約91%から約83%に下がりました。

このようにスタートアップの急速な事業成長には資金調達が不可欠ですが、第三者から株式により資金を調達すると創業者等の持株比率は低くなっていきます。株式会社において重要な意思決定は株主総会で行うため、希薄化により持株比率の低下=議決権比率の低下となり、創業者や経営陣の意図通りに事業を行うことが困難になる可能性があります。

なお、希薄化の程度を示す指標に希薄化率というものがあります。
希薄化率=新規発行株式総数÷増資前の発行済株式総数×100

タロウさんの場合、シード期で10%、シリーズAで9%の希薄化率です。
この希薄化率は調達ステージにもよりますが、10~20%程のスタートアップが多いです。希薄化率と創業者や経営陣の持株比率、両方を意識しながら資本政策を策定しましょう。
資本政策を策定する際は、Webにて投資家等が公開しているテンプレートや、株式会社スマートラウンドが公開しているシミュレーターが便利です。
また、
中小企業庁の資料や投資契約書のひな形も参考になります。

(おまけ)J-KISSの活用

なお、上記事例では時価総額を簡便的に記載していますが、実際にはシード期は成長の見通しに不確実性が多く企業価値算定は困難です。
そのため、シード期の資金調達には企業価値算定を先送りできるJ-KISSの活用が有用です。J-KISSは有償新株予約権を用い、付与時点では新株予約権行使により取得する株数、株価は未定で投資金額といくつかの条件のみを決めて資金を調達し、新株予約権を発行します。その後、次回のシリーズAラウンドのバリュエーションに準じて、投資契約書で定めた有利な条件により株式を取得します。
このようにJ-KISSを用いると企業価値算定をシリーズAまで先送りにできるため、シード期の困難な企業価値算定を避けることができます。加えてJ-KISSは投資契約及び新株予約権の内容のひな形が公開されているため、資金調達を迅速に行うことができます。
参考:
J-KISS:誰もが自由に使えるシード投資のための投資契約書

 

創業時の株主構成や創業株主間契約の重要性

資本構成は失敗すると後戻りができません。
上記の例はタロウさん1人での創業でしたが、実際には複数名での創業は多くあります。例えば2名で起業し株数を均等に保有した場合、意見が対立しても株主総会の決議をすることができず事業継続が困難になります。そうなるとせっかく事業が成長しても、資金調達、IPOやM&Aができなくなる恐れがあります。
共同創業する場合でもなるべく誰か1人が過半数を持つようにしましょう。
均等に保有している場合であっても、退任時には残った創業者に株式を譲渡するといった創業株主間契約を締結することで上記のようなリスクを回避できます。
また、株主間契約は後から参画する役員や従業員に株式を付与する場合にも有用です。
参考ブログ:株式報酬とストックオプションの比較 | Takeoffer会計事務所

資金調達が進むにつれ上記の通りダイリューションが進むため、過半数を維持することが難しくなっていきます。その場合でも創業者や経営陣で1/3以上は持っておくと株主総会で決めるべき事項の中でも重要な事項について拒否することができます。

なお、別視点として調達前は株主の反社チェック、反市場勢力チェックはマストです。反社会的勢力と関わりがあると資金調達や上場はできません。また、取引先との契約が打ち切られる場合もあります。反社チェックツール等の活用をご検討ください。

株主増加による管理コスト

さて、タロウさんは晴れてベンチャーキャピタルから資金調達ができましたが、株主が増加すると会社法上の手続が増加し管理が大変になります。具体的には以下項目で手間が増えます。

  • 株主名簿管理
  • 株主総会招集手続の増加
  • 場合によっては種類株主総会の開催、招集手続の増加

特に株主総会の招集手続は書面にて郵送で行うため、社員が少ないスタートアップにおいては手間になります。
なお、招集通知や法定の附属書類をメールやチャットツールで送付することについて承諾を受ければメールやチャットツールで招集手続を行うことが可能です(会社法299条)。投資契約書等に本事項を織り込むことで招集手続が簡便になるため推奨しています。少しでも事業に集中できるようご検討ください。

まとめ

今回は資金調達と希薄化、関連する株主構成や株主増加による管理コストについて紹介しました。資本政策は後戻りができないため、調達前に慎重に進めましょう。
Takeoffer会計事務所は資本政策の相談や、会計処理から税務相談まで幅広いアドバイスを行っております。
何かありましたら、お気軽にご相談ください。