「悪意ある通報」とどう向きあうか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241127&ng=DGKKZO85060410W4A121C2DTC000【コメント】
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241127&ng=DGKKZO85060410W4A121C2DTC000【コメント】
- 兵庫県が、職員からのパワハラ疑惑告発文により、知事が失職し選挙が行われ、再度現職の知事が選ばれたという混乱は記憶に新しいことです。
- パワハラが本当にあったのかどうかの真偽は未だはっきりしませんが、再選されたという事実からするとそこまでの事象ではなかった感じもします。業務上のやり取りから職員のかたが斎藤知事に単に恨みを持っていたのかもしれません。告発し自殺した職員のかたも、私生活を含め問題が多かったとの話も聞きます。
- この記事では、「通報者保護」と「悪意ある通報の濫用」に関する問題提起を行なっています。記事前半の架空のケースは、ありがちな話で、経営者が企業を維持/成長させていくために行う施策が恨みをかい、株価が無用に下落し企業価値を毀損してします例です。
- 通報する側にもされる側にもそれぞれ正当な言い分はあると思われ、組織のトップは日々の振る舞いや言動には十分注意することが必要と思われます。
【記事概要】
- X社のA社長は中興の祖であった。不振事業の構造改革を進め、経営資源を成長事業に集中投下して収益を劇的に改善させた。だが、A社長に恨みを持つ社員Bがいた。不振事業の部長を長年務めた社員Bは、構造改革の中でその任を解かれたのだった。
- ある日、メディア各社にA社長のパワハラ疑惑を記した「告発文」が届いた。社員Bが記した同文には、噓の事実が、外部からは虚実の判別が容易でないように書かれていた。メディアは大きく取り上げ、X社の株価は下落した。
- A社長にとって、この事態への対処は困難を極めた。A社長からみて告発内容に「真実相当性」がなく、公益通報者保護法でその事実発生や被害拡大の防止に必要と認められる通報(3号通報)に該当しないことは明白であった。
- だが、X社は2022年6月施行の改正同法で追加した「体制整備義務」、そして消費者庁による具体化の「指針」を受けて、通報者が「不利益な取り扱い」を受けないように体制を構築していた。
- そこでは告発者や真偽の探索を、被通報者である社長から独立した、第三者委員会が担うとされていた。第三者委による検証は時間がかかった。その間に報道は過熱し、X社の株価への悪影響も拡大した。やがて第三者委がA社長は「シロ」との結論を出し、X社は公表したが、メディアの扱いは小さく、株価の急回復にはつながらなかった。
- 以上は兵庫県知事のパワハラ疑惑を巡る法的解釈の議論に触発され筆者が作成した架空のケースだ。X社の例が物語るのは改正同法と同指針が求める通報者保護を徹底すると、虚偽の通報を行った者でも保護され、真実相当性のない通報もいったん公益通報として扱われねばならない可能性が生じることだ。現行法は悪意ある通報の可能性を軽視しており、制度の濫用(らんよう)者が付け入る余地を生んでいるように思われる。
- 現在、消費者庁で「公益通報者保護制度検討会」が開かれている。欧州連合(EU)に倣い、通報者が故意に虚偽の通報をした際の罰則を設けるべきだとの意見が出た一方、通報者保護の観点から反対の意見もあったという。
- 企業の経営陣や株主はこの罰則の議論に注目すべきだ。悪意ある通報の可能性を軽視したままでは、日本株売りの要因になりかねない。