電気・ガス補助「不適切」77% 経済学者47人調査 市場機能のゆがみに警鐘
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241129&ng=DGKKZO85117210Z21C24A1MM8000
103万円の壁、上げ「理解」44% 実質増税を問題視、引き下げ求める声も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20241129&ng=DGKKZO85117960Z21C24A1EA2000
【コメント】
  • 日経が、経済学者に現在検討されている経済対策についてアンケートを実施したそうです。クローズアップされているのは、「電気・ガス料金への補助」と「103万円の壁の引き上げ」です。
  • 「電気・ガス料金への補助」は不適切とした学者は全体の77%.でした。理由は「補助は物価抑制には逆効果で、環境保全にも悪影響を及ぼす」「本来必要ではないかもしれない高所得層にも恩恵がいってしまう」
  • 「103万円の壁の引き上げ」は約4割が理解を示したそうです。生活費の上昇に合わせて課税最低限も上げなければ、実質的な増税になるのが主な理由でした。ただ、社会保険の加入要件となる106万円や130万円の壁と合わせて改革を求める声も多かったようです。
  • 望ましい経済対策のあり方の意見は、「物価高対策は電気・ガス料金など特定の財への補助よりも低所得者向け支援を優先すべき」との意見が81%に達していました。ただ低所得者向け支援の方法には大きな問題があるようです。住民税非課税世帯は高齢者が多く預貯金をそれなりに保有している世帯が多いようで、支援が本当に必要な低所得者世帯に3万円程度ではなくもっと実効性のある支援を行うべきと思われます。
【記事概要】
  • 日本経済新聞社と日本経済研究センターは28日、経済学者に政策の評価を問う「エコノミクスパネル」の第1回調査の結果をまとめた。
  • 石破茂政権が経済対策に盛り込んだ電気・ガス料金への補助を「不適切」と答えた割合は77%に上った。補助金が市場の機能をゆがめ、脱炭素にも逆行するというのが主な理由だ。
  • 一橋大の森田穂高教授(産業組織論)は「特定の財への補助は価格メカニズムを通じた適切な資源の配分をゆがめる」として反対した。
  • 米プリンストン大の清滝信宏教授(マクロ経済学)は「補助は物価抑制には逆効果で、環境保全にも悪影響を及ぼす」と答えた。
  • 早稲田大の野口晴子教授(医療経済学)は「本来必要ではないかもしれない高所得層にも恩恵がいってしまう」と補助があらゆる層を対象にする点を課題とした。
  • 補助が適切だとする回答は11%だった。京都大の高野久紀准教授(開発経済学)は「物価高対策として考えられるもののうち事務コストが低い」などを理由に挙げた。
  • 望ましい経済対策のあり方についても聞いた。「物価高対策は電気・ガス料金など特定の財への補助よりも低所得者向け支援を優先すべきか」との問いには「強くそう思う」と「そう思う」の割合が計81%に達した。
  • 調査からは低所得者向け支援の課題も浮かび上がった。政府は補正予算案に、住民税非課税世帯に1世帯あたり3万円を支給する支援策を盛り込む。一橋大の佐藤主光教授(財政学)は「非課税世帯イコール低所得世帯ではない。収入や資産の実態に即した給付が望まれる」と述べた。
  • 22年の国民生活基礎調査によると、およそ1300万の非課税世帯の7割を65歳以上の高齢者が占め、その半数ほどは1500万円以上の資産を持つとされる。一橋大の高久玲音教授(医療経済学)は「現状の低所得者向け支援は就労のみで生計を立てている現役世代に届いていない」と指摘した。
  • 新型コロナ禍で住民税非課税世帯を対象とした1世帯10万円の給付には事務費が1000億円超かかった。ブリティッシュコロンビア大の笠原博幸教授(計量経済学)は「現在の低所得者向け支援は行政コストが高くつく」とし、マイナンバー制度の活用など支援の効率化を求めた。
  • 2025年度の税制改正の焦点である所得税の課税最低限「103万円の壁」について問うと、引き上げを支持する経済学者は44%と支持しない割合(13%)を上回った。生活費の上昇に合わせて課税最低限も上げなければ、実質的な増税になるのが主な理由だ。社会保険の加入要件となる106万円や130万円の壁と合わせて改革を求める声も多かった。
  • 引き上げの是非は「どちらともいえない」(38%)との回答も目立った。103万円の壁が除かれても、年金や医療の社会保険料負担が会社員の妻らに生じる「130万円の壁」などは残る。東京大の松井彰彦教授(ゲーム理論)は「他の壁とあわせた議論をしなければならない」と述べた。
  • 税や社会保険料がかかる収入の最低限度額の存在が就労を阻んでいるという見方を多くの経済学者が支持した。最低額を引き上げても新たな額が就労の壁となるのは変わらない。
  • トロント大の伊神満准教授(産業組織論)は「実質的な減税を行う財政的な余力があるのか」と疑問視した。
  • 103万円の壁の引き上げは、壁を意識して就業時間を制限するパートらの就労増を期待して提起された経緯がある。課税最低限の引き上げがパートやアルバイトの労働供給を増やすかを尋ねたところ、62%が「増えると思う」と答えた。
  • 配偶者のいる女性の給与収入分布を調べた東京大の近藤絢子教授や学習院大の深井太洋准教授の研究は、年収103万円を超えて働く層が極端に少なくなることを突き止めている
  • ただ106万円や130万円の社会保険料の壁の存在がある。103万円を引き上げても「労働供給の引き上げ効果は限定的」(大阪大の恩地一樹教授)との意見も多く上がった。
  • コロンビア大の伊藤隆敏教授(国際金融)は「103万円の壁だけの撤廃では大きな労働供給増にはつながらない。所得税と社会保険料の一体的な見直しが重要である」と述べた。
  • 扶養家族のいる納税者に適用される配偶者控除や扶養控除の仕組みを変えるべきだとの意見も多かった。一橋大の森口千晶教授(比較経済史)は「より重要な壁は配偶者控除や扶養控除にかかわる上限額」と述べた。
  • カリフォルニア大デービス校の保田彩子教授(ファイナンス)は「根本的な問題は、既婚女性が扶養家族であることにインセンティブを与えている今の税制が、女性の長期的な働き方を狭めている事なのではないか」として改革を求めた。