「米生産なら関税なし」 トランプ書簡、透ける交渉意図 日本への譲歩余地残す 車や鉄鋼は「別枠」強調
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250709&ng=DGKKZO89908280Z00C25A7EA2000
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【コメント】
- 来ました、トランプ大統領のTACO(Trump Always Chickens Out)書簡。今日が関税交渉の期限でしたが、結局8月1日まで交渉期限が延期されました。しかし政府の期待も虚しく、日本が特別扱いをされることはないようです。
- ではなぜ政府は日本が特別扱いをされるという期待を抱いたのでしょうか?少なくとも貿易統計を見ると特別扱いなどあり得ないと思います。財務省が発表した2024年度の貿易統計速報によると、日本の貿易収支は5兆2216億円の赤字、このうち対米貿易は黒字で19兆53億円でした。しかも対米貿易黒字の内約8割は自動車の輸出です。
- この数字を基にトランプ大統領は、日本からの輸入品全般に高関税を課し、さらに(米国から見ると)諸悪の根源である自動車には特別に更に高関税を課すといい続けていますが、その気持ちは理解できないでもありません。
- 日本が自動車をはじめとした対米輸出をそのままにしたいならば輸入を増やせということになりますが、そもそも日本国民は米国製品を買うインセンティブがありません。欧州の高級ブランドには目がいきますが、米国のブランドはいまひとつですし、あの低燃費でデカい自動車にも購買意欲はそそがれません。
- 一つあるのは農産品です。これは日本が輸入関税を無くし自由に輸入できるようになれば日本国民は嬉しいはずです。しかし失職を恐れる自民党政権である限りこの政策は不可能です。農協が怖いので、、、。
- 石破首相は日本の中の会議で「遺憾」を連呼するばかりで生産的な行動にはでていません。20日の参院選を危惧し選挙演説に邁進している首相には敬意を感じません。選挙活動を捨ておき、米国に飛んで何日でもトランプ大統領と交渉する姿を見せることが、その成果はどうあれ日本国民の胸には刺さります。
【記事概要】
- トランプ米大統領は米東部時間7日に署名した大統領令で、現在停止中の相互関税の上乗せ税率の再発動日を7月9日から8月1日に延長した。トランプ氏は書簡で税率を引き下げる可能性を示唆したものの、参院選を控える日本政府は交渉材料に乏しい
- トランプ氏が7日に自身のSNSで公開した書簡は「米国市場への招待」をうたいながら新たな関税率を告げるいんぎん無礼な内容だった。
- 日本を含む14カ国宛ての書簡は国名や首脳名、税率以外はどれも同じ文面で、完全にテンプレート化された文書でもあった。
- 新税率を日本に通告するくだりでは「わずか25%の関税を課します。これはすべての分野別関税とは別です」と記した。
- 25%という高税率に「わずか(Only)」という言葉を加え、日本に「配慮している」という雰囲気を演出。その一方で分野別関税は別物だと強調することで、自動車や鉄鋼・アルミニウム関税などは譲らない姿勢をにおわせた。
- 米シンクタンク、アジア・ソサエティー政策研究所のウェンディ・カトラー副所長も書簡は「米国が分野別関税を譲歩するつもりがないことを示唆している」とみる。
- トランプ氏の関税政策の根本にあるのは、高関税で輸入品を阻止すれば、外国企業は米国内で生産せざるを得なくなるという思想だ。書簡でもその考えを改めて強調し「米国内で生産するなら関税はかかりません」と日本企業に呼びかけた。
- トランプ政権からすれば、貿易相手国と交渉を続けている間は関税収入が政府の懐に入り続けるというメリットもある。
- 米シンクタンクの超党派政策センターによると、米国の2025年の関税と物品税の収入は7月3日時点で982億ドル(約14兆円)で前年同期のほぼ倍に膨れ上がった。
- 現時点では関税負担の消費者への転嫁は限定的だ。トランプ政権は各国との交渉で譲らず、外国企業が音を上げて米国に生産拠点を移すのを待つ作戦を続けられる環境にある。
- 今回の書簡は基本的に強気一辺倒だが、結びでは貿易相手国に「譲歩してもらえる余地があるかもしれない」と思わせる記載も盛り込んだ。
- 関税や非関税障壁を撤廃するなら「おそらくこの書簡の調整を考えるでしょう」と含みを持たせた。新たな関税率が「上がったり下がったりするかもしれない」とも書いて、貿易相手国に揺さぶりをかける。
- ただし、米国がここで上げ下げの対象と想定しているのは、あくまで相互関税の上乗せ税率だ。多額の税収につながっている相互関税の基本税率や自動車関税をトランプ政権がやすやすと手放すことは考えにくく、日本や韓国などは今後も厳しい交渉を強いられる。
- 石破茂首相は8日に首相官邸で開いたトランプ関税に関する総合対策本部で新税率の設定について「誠に遺憾だ」と述べた。首相は交渉を継続するよう関係閣僚に指示したものの、これまで多用してきた「撤廃」という言葉は使わなかった。
- なかなか成果が出ないなか、早期に合意できる点を探そうとする意図がにじむ。外務省幹部は「自動車はゼロではなく、段階的な引き下げも許容できる」と話す。
- 自動車は日本の基幹産業で、国内雇用や地域経済への影響が大きい。自動車業界の負担軽減は喫緊の課題であるためだ。
- 赤沢亮正経済財政・再生相は8日、ベッセント米財務長官、ラトニック米商務長官とそれぞれ電話協議した。関税交渉を「精力的に継続」することで一致した。
- 日本では20日に参院選の投開票がある。石破政権は与党で非改選を含めて参院全体の過半数維持を目標にする。達成できなければ参院でも少数与党になり、政策決定にこれまで以上に時間を要するとの見方がある。
- 政権の枠組みを巡る動きが活発になれば、首相が関税交渉に集中できなくなる懸念もある。
- 日本はこれまでの関税交渉で日本企業による対米投資の実績や雇用への貢献を強調。新たな日米協力として船舶の共同製造や米国での修繕ドック整備などを想定した造船業の再興を提案した。対中国を念頭に置いた交渉カードを提示したが、トランプ氏が納得するまでに至っていない。
- 関税発動の期限が8月1日に延長されたことで政府内では一定の安堵感が広がるものの、政治情勢によってはスタート地点に戻る可能性もある。