「歴史戦」の標的は日本より米国、台湾狙う習氏が仕掛ける巧妙なワナhttps://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD271DY0X20C26A9000000/

【コメント】

  • 今朝早朝、日経が米中首脳会談の評価記事を掲載していました。
  • ポイントは、中国習近平氏の策略です。
  • 会談の冒頭で、トランプ大統領は「第2次世界大戦で米国と中国は同盟国であり、共に戦って勝利を収めた」と発言したことが話題になっています。これは会談の事前の事務方協議で中国から「言うように促された」ということだそうです。
  • 既報道にあるように、当時米国と友好関係にあったのは現在の台湾(中華民国)です。トランプ大統領がこの発言をしたことにより、「現在の中華人民共和国は、中華民国を含む過去の中国の歴史を全て引き継いでいる」ことを米国に認めさせたことになるとの論理展開です。よって台湾は、現在の中華人民共和国の一部ということになり、これを中華人民共和国が統治することは自然ということです。
  • トランプ大統領は、11月の中間選挙を控え、なんとしてでも中国への輸出拡大を勝ち取りたかったことで、この発言をするように中国から要求されたことに抗しきれなかったようです。
  • 香港と同様に台湾も早晩、中華人民共和国の一部となるのでしょうか?早めに台湾旅行をした方が良いかもしれません。

【記事概要】

  • 「両首脳は第2次世界大戦で米国と中国が同盟国であり、共に戦って勝利を収めたことを思い起こした」。中国国家主席の習近平(シー・ジンピン)が国賓としての米国訪問で勝ち取った最大の成果はこの「同盟国」という文言に尽きる。中国はほくそ笑んでいる。経済・貿易面の成果が中途半端なものであったとしてもだ。
第2次大戦時の中国は中華民国
  • 冒頭で挙げたのは、米ホワイトハウスが25日、大統領のトランプと習の会談などについて発表した成果文書(ファクトシート)の公式な表現である。だが、第2次世界大戦(1939〜45年)当時、中国大陸に中国共産党が1949年に打ち立てた中華人民共和国は存在せず、国民党の蔣介石が率いる中華民国の時代だった。
  • しかも、その後の朝鮮戦争(1950〜53年)では、中華人民共和国の志願軍が朝鮮半島で米軍と直接、激しく戦い、双方とも多大な犠牲者を出した。日中戦争、日米を含む第2次世界大戦より今に近いリアルな現代史だ。
  • 中国の習近平国家主席㊧を案内するトランプ米大統領(25日、ワシントン)=ゲッティ共同
  • 主語をすり替えた違和感ある表現に関して、とかく日本人は中国が主導するお決まりの「日本たたき」という文脈でばかり理解しようとしがちだ。悪化した日中関係を思い起こすからである。
  • 24日、ホワイトハウスで開かれた歓迎式典の挨拶で、まずトランプが米中関係について「同盟国だった」と語った。続いて習が公式晩さん会で呼応するように「両国民は日本軍国主義の侵略者と戦った」などと強調している。
  • 事象だけ追うと、いつもの「日本たたき」という印象が強まる。だが、それは本質を見誤っている。まさに「木を見て森を見ず」である。慣れっこになっている「日本たたき」の裏には、もっと大きなシナリオが隠されている。
  • 核心は台湾統一という問題にある。「中国は一つしかなく、台湾は中国の一部」という中国の主張の根拠は何か。それは「新しい国家である中華人民共和国が第2次世界大戦を含むそれ以前の中国(中華民国)の歴史をまるごと引き継いだ」と信じているからだ。
  • 現代中国のトップに立つ習が、2026年の今になってトランプから「米国と中国は第2次世界大戦時の同盟国」という言質を必死に引き出す意図はここにある。単なる古証文の確認ではない。習は既に鬼籍に入った蔣介石を相手に過去の歴史と格闘しながら、現代国際政治力学上の利点をトランプから引き出そうとしている。
  • かつて中華民国を率いた蔣介石㊨と夫人の宋美齢
  • 今回、中国は「トランプの米国に第2次世界大戦を含むかつての中国の歴史を習が仕切る共産党の中国が全て引き継いでいると明確に認めさせた」と解釈。台湾統一に向けた論理的な布石にもなると考えている。
日本「新型軍国主義けん制」は刺し身のツマ
  • 日本の高市早苗政権と対峙する中国にとって「過去の日本軍国主義との戦い」「新型軍国主義けん制」は、今後もゲームを有利に運ぶために必要な要素だ。だが、いわば台湾統一という刺し身本体に付いているツマにすぎない。中国が「歴史戦」の巧妙なワナを仕掛けた真の相手は日本ではない。それは米国だ。
  • トランプ米大統領㊨と会談する高市首相(22日、米ニューヨークの国連本部)=共同
  • さらに中国はこう考える。トランプが歴史的に継続する「一つの中国」を改めて認めたのだから、次は中国の一部である台湾の独立に反対するのが当然だ。そう畳みかけやすくなる。この論理でトランプ政権による台湾への武器売却も強くけん制できる。
  • 米国の歴代政権は台湾海峡の平和と安定のため「現状維持」を求める現実的な外交姿勢をとってきた。「台湾独立を支持しない」という米政権による言質はこの方針を意味する。
  • 習はこれを打破して一歩前に進めたい。それが「台湾独立に反対する」という新たな言質の獲得だ。台湾問題について「交渉カード」と言ってはばからないトランプからなら、引き出せるかもしれない。その第一歩にしたいのが、今回の「米中は同盟国だった」というトランプの言葉だった。
  • 習はトランプとの首脳会談で「米側が台湾独立に反対する正しい立場を堅持し、慎重に台湾問題を処理するよう希望する」と攻勢に出た。それは「米中は同盟国だった」とトランプが発言するシナリオで双方が事前に合意していたからだ。トランプはそれを読んだだけ。トランプと習の発言は連動していた。
  • 中国の習近平国家主席㊧に語りかける米国のトランプ大統領(24日、ワシントン・ホワイトハウス)=ロイター
  • では、習が仕掛けたワナの本当の意味をトランプも理解していたのか。それは不明だ。トランプは記者団に「台湾について多くの時間をかけて話したわけではない。習氏は私の考えをよく理解している」と述べただけである。既に布石を打った習にとっての勝負は、年内に残り2回あるとされる米中首脳会談である。
  • 今回の習訪米で中国側の準備当局がこだわったのは「対等」だ。交渉経緯を知る関係筋によると、習の体面上、重要な対等性を演出するため、はじめに固まったのが9月23〜25日(2泊3日)という3日間限定の日程だった。
  • 5月のトランプの訪中が、格の高い国賓訪問にもかかわらず、予想より短いたった2泊3日に終わったためだ。トランプの訪中時に訪れた場所が首都・北京に限定されたため、習訪米の訪問地も首都ワシントンだけになった。
中国企業トップが習氏に同行しない異変
  • 米中両国は対等という大原則に背く汚点がひとつだけある。著名な中国企業のトップが、習訪米に一人も同行していなかった異変だ。5月のトランプ訪中では名だたる米企業トップが同行。当初、同行しないとされた米半導体大手エヌビディアの最高経営責任者(CEO)のジェンスン・ファンも、トランプの説得に応じて急きょ参加した。
  • トランプを歓迎する北京での晩さん会には、米テスラのCEOであるイーロン・マスク、米アップルCEO(当時)のティム・クックらも出席した。そこには中国スマートフォン大手、小米(シャオミ)CEOの雷軍ら中国企業トップも招かれ、雷軍がマスクに歩み寄って自撮りする様子などが話題になった
  • だが、9月24日の晩さん会の席に主要な中国企業トップの姿は皆無。習とトランプがいるメインテーブルには、5月のトランプ訪中にも同行していたマスクらが座っていたにもかかわらずだ。
  • 中国の習近平国家主席を歓迎する米ホワイトハウスでの晩さん会に出席したテスラCEOのイーロン・マスク氏㊥(24日)=AP
  • 関係者によると、中国企業トップらは訪米の準備をしていたという。その数は20〜30人。5月のトランプ訪中時の米企業同行者に近い人数を想定していた。ところが9月の習訪米が近づいてくると、その話は雲散霧消する。主たる原因はトランプ政権側の事情の変化である。中国企業トップらの訪米を米側が事実上、拒否したことになる。
  • そこには、11月に迫る米中間選挙に向けたトランプの思惑も関係している。政治的な緊迫感が漂うこの時期、勢いある中国企業のトップが米政治の中心地、ホワイトハウスで我がもの顔でふるまう印象が流布されれば、選挙対策上、マイナスになりかねない。
  • 中国企業トップが習に同行できない異変で、習がヘソを曲げてもおかしくなかった。中国側は米市場の開放を求めていたのだから。それでも習は我慢した。トランプが別の面で習に配慮したからだ。習の米国到着時に自ら出迎える異例の厚遇である。
  • ちなみに5月のトランプ訪中時、北京の空港で出迎えたのは、中国国家副主席の韓正(ハン・ジョン)だった。米側も同等の対応をするとすれば、副大統領のバンスらが適任だったはずだ。
  • 今回の習訪米に関して具体的な合意内容の乏しさを儀礼・儀式の重厚さで覆い隠したという辛口の評価が米側から出ている。それは確かに真実を突いている。だが、中国側とすれば、台湾問題の前進に向けて伏線を張り巡らせ、習の政治的な体面も十分保たれたことで合格点を付けられる。それもまた一面の真実である。(敬称略)