近年、在宅ワークや個人事業主の増加によって、「自宅兼事務所」のスタイルが広がっています。
今回は、個人で持ち家を購入する場合の税務上のポイントについて、「4,500万円のマンションを購入し、事業用30%・居住用70%で利用するケース」を具体例に解説します。
個人で持ち家を購入する場合、住宅ローン控除の利用と事業経費の計上の併用ができます。ただし、それぞれに適用条件があるほか、併用する場合の注意点もあります。
※法人名義で購入する場合はこちらのブログをご参照ください。(参考ブログ:法人が自宅兼事務所を購入した場合の税務)
住宅ローン控除について
住宅ローン控除は、税額控除として、所得税から下記の算出金額を差し引く制度です。
個人で持ち家を購入する場合に適用できる制度ですので、法人名義で購入する場合との主な違いはこの制度かと思います。
ただし、購入する物件内容により控除の上限金額や利率が変わるほか、適用条件として以下のような様々な要件があります。
【主な要件】
- 居住用割合50%以上(床面積の過半数)
- 床面積が50平米以上
- 住宅ローンの融資後6ヵ月以内に居住を開始し、引き続き居住している
- 借入期間が10年以上、かつその年の合計所得金額が2,000万円以下
詳細は、国税庁HPをご覧ください。
※不動産売却時の制度である「マイホーム特例」は、住宅ローン控除との併用ができません。
経費にできる項目とその割合
個人の持ち家の場合は先ほどの住宅ローン控除制度と併用して経費の計上が可能です。事業経費として、以下などの項目(事業用割合分)を経費計上し、収入から差し引くことができます。
【住宅ローン関係】
- 物件購入時の住宅ローン事務手数料・保証料・登記費用など
- 住宅ローン返済にかかる利息(※元本の返済は対象外)
- 建物の減価償却費
- 火災保険料・地震保険料
- 固定資産税 など
【その他の経費】
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- 水道光熱費・インターネット使用料等の一部など
※減価償却費の計上には、以下の注意点があります。
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- 減価償却の対象は建物部分のみ(土地は不可)
- 建物と土地の割合は、マンションの場合、建物30~40%程度が一般的
- 償却率は構造によって異なる ※例:RC造(鉄筋コンクリート)のマンションでは約2.2%
事業用割合の決め方と根拠資料
物件の事業用と居住用の割合は、使用実態や面積比に基づいて合理的に判断します。確定申告時に根拠資料の提出義務はありませんが、税務調査時には説明を求められることがあります。
マンションの場合、書斎や一部スペースのみを事業に利用するケースが多く、実際の按分比率は10〜30%程度のケースが一般的です。一軒家の場合も同程度の割合になることが多いです。
具体例:住宅ローン控除と経費の併用シミュレーション
【前提としての物件の例】
・物件価額:4,500万円(うち、建物価額は35%の1,575万円)
・償却率:RC造で約2.2%
・全額住宅ローン支払(残債=物件価額)
・住宅ローンの返済利率:2%
・使用割合:事業用30%・居住用70%
住宅ローン控除シミュレーション
※控除の上限額は、条件によるが14万円~31.5万円
事業経費シミュレーション
【ローン返済に係る利息】=4,500万円×30%(事業用割合)×2%=約27万円/年
【減価償却費】=1,575万円(建物価額)×30%(事業用割合)×2.2%(償却率)=約10.4万円/年
併用した場合の注意点
減価償却費は事業所得の経費として「収入から差し引く」一方で、住宅ローン控除は最終的な「税額から直接引ける、税額控除」であるため、住宅ローン控除の方が金額的なインパクトは大きい傾向にあります。
税額控除のインパクトについては、下記の記事をご覧ください。(参考ブログ:所得控除と税額控除の違いと所得税率の考え方)
そのため、減価償却費の事務所利用分を経費計上する方法も考えられますが、住宅ローン控除及び償却分の簿価が減少することによる控除額の減少・売却時の売却益の減少の影響も加味して、減価償却は行わない方が一般的です。
また、事業用の床面積が10%未満の場合、床面積を100%として住宅ローン控除を全額受けることができます。
そのため、事業用割合をあえて10%未満にして住宅ローン控除の恩恵を最大化するという選択肢も考えられます。(ご参考:租税特別措置法関係通達 41-29)
法人で購入した場合はどうなる?
法人でマンションを購入することも可能ですが、以下のような制限があります。
- 住宅ローン控除の対象外
- 減価償却は建物部分のみ(土地は対象外)
- 居住部分の使用には「賃料相当額」が必要
また、法人で所有することで相続や売却時の扱いにも差が出るため、個人名義での購入と法人購入はメリットとデメリットがあります。比較の詳細は、こちらの記事もご参照ください。(参考ブログ:「不動産購入は法人名義?個人名義?~それぞれのメリット・デメリット~」)
まとめ
個人で自宅兼事務所として不動産を購入する場合は、住宅ローン控除の適用条件や減価償却の計算方法、使用割合の根拠など、細かな点を比較検討しておく必要があります。
特に、控除と経費のどちらが有利かは、所得状況や物件の構造・価格によって大きく変わるため、物件や条件ごとにシミュレーションを行うことが大切です。
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