尾が胴体を振り回す政治
【コメント】
- 石破首相の政治力量に疑問を呈する記事です。
- イギリスのスターマー政権は明確に「大きな政府」で社会保障の後退を是正すると提案する一方、その財源は「高所得者の増税」と「暖房費補助の打ち切り」と明快で、批判覚悟で財政のバランスを明示しています。
- ドイツは、「大きな政府」を提唱するショルツ首相が「小さな政府」を主張する他党のリントナー財務相を解任した。どちらが正しいということはさておき、首相と財務相には明確な政治心情があります。
- 一方記事では、石破首相は野党に言い寄られて大きな補正予算で「大きな政府」を目指すことになっていますが、増加する支出を補う財源には全く触れていないとの記載。選挙を睨んだ人気取りのバラマキ政策の提言としかうつっていないようです。イギリス首相のように、批判覚悟の正論で政策提言をしてほしいものです。そうすれば、そこに激しい議論が生まれ、日本を良い方向に導く決定がされるはずです。自民党は、正しい政策提言(財源確保の)をする中で、野党から内閣不信任案が出されたとしても、見識ある国民には理解されるはずです。
【記事概要】
- ことし7月の総選挙でスナク首相率いる保守党を打ちのめし、14年ぶりに政権を奪還した労働党のスターマー政権は「大きな政府」を標榜する。10月末、11番地の前でレッドボックスを掲げてみせたリーブス財務相が、その中に詰めた財政計画を一言でいうと、増税路線まっしぐらだ。
- 目玉の一つが、歴代の保守党政権が冷遇してきた感がある国民医療制度(NHS)につぎ込む予算、つまり医療費の増額である。「肩幅が広い人には、より広い負担を背負ってもらう」(スターマー首相)方針のもと、所得や資産が多い人からより多くの税を取り、再分配を強める。
- 年金暮らし世帯への暖房費補助を打ち切る苦渋の決断について、首相は「NHSの立て直しにはやむを得ない。NHSはそれほど悲惨としかいえない状況だ」とも語った。
- 大きな政府への転換に必要な財源は400億ポンド(8兆円弱)の大型増税と国債発行で賄う。支持率は急落したが不人気は想定内かもしれない。下院定数650のうち411議席を占める盤石政権の強みを武器に、歩を進める。
- ドイツは今月、政府の大きさをめぐる3党連立政権内の確執が頂点に達し、政権が瓦解した。財政拡張を唱える社会民主党(SPD)のショルツ首相が、財政規律にこだわる自由民主党(FDP)のリントナー財務相を解任した。首相と財務相がともに信条を貫き通そうとした政治姿勢は特筆に値する。
- さて日本。10月に就任し、衆院解散―総選挙を経て少数連立与党の首相として国会に再指名された石破茂氏は、政府の大きさをどう考えるか。10月4日の衆参両院での所信表明演説からヒントになる文言を抜き出す。
- (岸田政権の)こども未来戦略を着実に実施▽「経済あっての財政」との考え方に立った経済財政運営▽国土強靱(きょうじん)化▽地方創生交付金の倍増▽教職員の処遇見直し――という具合だ。財政拡張の大きな政府が明白だ。ならば財源は、と読み返しても税や年金・健康保険の保険料には触れていない。極めつきは総選挙公示日の同15日、福島県いわき市で上げた第一声。「国費13兆円、事業総額37兆円という昨年の補正予算を上回る大きな補正予算を国民に問い、国会で成立させたい」13兆円超もの補正がなぜ必要か、中身は判然としない。演説内容を事前に知ったある官僚は、やんわりと苦言を呈したが「規模ありきだ。巨額予算を訴え、有権者の支持を取りつけてこその第一声だ」と、取りつく島がなかった。
- 現下の焦点は所得税の課税最低限、いわゆる103万円の壁の引き上げ幅だが、年明けの通常国会で審議入りする25年度予算案の編成が本格化する年末に向け、国民民主は自らの方針を予算案に反映させようとする。過半数割れ与党は小さな野党の主張をのまざるを得ない。犬の尾っぽが胴体を振り回す政治だ。
- この間にみえてきたのは、自らが実現させたい政府の大きさに関する軸を石破首相は持ち合わせていないのでは、という疑いである。英首相のように不人気承知で増税するわけでもなし。独首相のように「信条の異なる同志」を切り捨ててまで自らの政策を正当化するわけでもなし。
- 国費13兆円超と公言した24年度補正予算案を裏づけとする政権初の経済対策は、電気・ガス代の補助再開や住民税非課税世帯への3万円給付が俎上(そじょう)に載った。医療再建のために暖房費補助を犠牲にする英政権流のメリハリも、そこにはない。
- 政府の大きさはその国の有権者の選択だ。低負担・低福祉の小さな政府は国民に自助を促す。かたや大きな政府は確実な財源確保あってこそ。
- 石破氏に自らの政府の大きさを制御する力量は十分か。政府から独立した財政監視機関が必要なゆえんである。