【コメント】
  • 埼玉県八潮市で起こり、現在も復旧作業が続いている下水道管の破裂事故に対するコメント記事です。落ちてしまったトラック運転手の安否が非常に気になる件です。
  • 日本の上下水道施設は世界的にも定評があり、蛇口の水をそのまま飲める珍しい国です。
  • しかしその設備の老朽化は進捗しており、現在では約20%強が耐用年数を超えているそうです。今後年々老朽化が進むことは明白で、しかも人口減で水道料金を値上げしていかないと設備更新費用が賄えない危機的状況にあることを知っておく必要があります。
  • 英国は以前から、水道供給事業を民営化していました。しかも中国資本に委託しています。いろいろな問題はあるようですが、基本的には民営化で将来に向けた投資と売り上げのバランスを必死に計っていることが良い結果を生んでい流ようです。
  • 日本でも、鉄道や電力/ガス、郵便、通信の各事業はすでに民営化し採算性と将来投資のバランスをとる仕組みになっていますが、上下水道事業は未だ官依存です。今回の事案を踏まえ、民営化することを至急検討すべきではないかと感じますがどう思われますか?
【記事概要】
  • 埼玉県八潮市で下水道管の破損をきっかけに起きた道路の陥没事故は、老朽インフラを放置する恐ろしさをまざまざと見せつけた。なすべき行いを直視せず、漫然と先送りを繰り返すあしき習性が「水道」に凝縮されている。
――設備は時々刻々と古びていくのに、投資の原資は先細る。日本の水道はもつのか。
  • 20年前の時点で『10年くらいしかもたないのではないか』と思ったが、実際には20年もった」
――誤算の理由は。
  • 「現場力が強いからだ。水道は今もジャパン・アズ・ナンバーワン。水道管から出てくる水は世界最高の品質が保たれている。だが、将来も最高水準でいられるかどうかはわからない」「皮肉な言い方になるが、現場力が強いため、『戦術』の工夫で意外に長持ちしてしまう。『戦略』そのものは古くていいかげんであるにもかかわらず。根本的な『戦略』を見直したり、基本構造を変えたりといったことが後手に回ってきた。日本の産業を象徴しているように感じる」
――そんな状況が長く続くとは思えない。
  • 「水道は今、尋常でない課題に直面している。水道法が1957年にでき、70年には水道の普及率が80%に達した。そのころにほぼ完成していたということはつまり、50年前に集中投資された設備が古びてきている。かつては人口が増え、水道事業の収入も伸びていたが、少なくとも量は減っていく。長期的に需要が減る中で更新投資の負担が膨らむわけだ」「担い手のサステナビリティー(持続可能性)も重い話だ。水道事業の技能を持つ職員がいなくなり、技能の伝承が難しくなるのを目の当たりにしてきた
――状況の深刻さの割に事業を担う自治体の動きが鈍くないか。
  • 「従来と違うやり方で解決する必要がある。20年前は自治体の数と同じだけ上水道の事業者があり、全国におよそ1700もあった。経営体力を増すための統廃合で、事業者は1300まで減ってきたとはいえ、まだ多すぎる。事業者が多いまま、しかも公のままやっていると、中堅以下の自治体は対応できなくなる。すぐわかることだ」
――何が統廃合を阻んでいるのか。
  • 「住民は当然の気分で文字通り湯水のごとく水を使っている。水に関して恵まれた地域と恵まれない地域が統合すると、安い水を飲めていた恵まれた地域の住民は割高な料金を背負わされることになる。料金設定は地方議会の承認を得ないと変えられないことが多い。住民の無関心を映し、議員たちも水道が直面する問題を認識していない。理解ある首長が正義感を発揮するのも難しい」「結果、水道料金はずっと横ばい。4割の自治体が原価割れの状態に陥っている。水道料金は2割くらい上げないと持続可能にならない」
――英テムズ・ウオーターは2010年代、中国資本を受け入れる大胆さで注目された。日本に足りない部分が英国流にあるのではないか。
  • 「たしかに英国のやり方は大胆だが、中国資本を入れても大丈夫な仕組みを整えたことだ。まず、水道事業を民営化する前に、流域ごとに大きく10地域に再編した。公の事業だとしても適切に広域化を進めたわけだ。その上で、水道料金の公正さを評価する機関を設け、水質をチェックする役割を明確にし、住民の声を代弁する組織をつくった。それから10の事業を順次、民営化していった」
  • 「もうけすぎ批判が起きたり、経営問題があったり、民営化に伴う副作用はある。それでも、民間の目を入れたということは、請け負った企業自身がやっていかないといけない。将来に向けた投資と売り上げのバランスを必死に計っていかざるを得なくなる。必要なら値上げをする。そういう点で効果はある」
――英国などと比べると、日本はずいぶん手前の段階にいる。
  • 「日本の場合は、そもそも将来の課題が社会で共有されていない。まずは課題を共有しないと『なぜ公がやればいいのに民間を入れるのだ』とか『民間をもうけさせるために料金を上げるのか』みたいな本末転倒の議論が起きかねない」
  • 「統計によると、年間2万件以上の漏水事故が起きている。数年前には和歌山県で橋を渡る水道管が破裂する事故も起きた。八潮市の下水管と同じく、上水道でも地中の目に見えないところで管が破損している可能性もある。2万件という数字が多いか少ないかは意見が分かれるとしても、課題が噴出しつつあるのは間違いない」
  • 「公の事業には金融機関のような第三者の目が届きにくい面もある。わざわざコトを荒立ててまでとことん議論しようという機運も乏しい」
――「水道」を通じて浮かび上がる、日本に足りないものは何か。
  • 「切迫感を抱く人が少ないことだろう。高度成長時代はとにかく投資しておけば問題なかった。その発想から抜け出せず、成長を前提にした考え方があらゆる制度に残っているのではないか」
――24年4月に上水道の所管が厚生労働省から国土交通省に移った。効果は期待できるか。
  • 「いくつかの意味でプラスだ。上水道と下水道を別の省庁が管理していたのが、ひとつになる。厚労省はいろいろやらなければいけない官庁で、水道への問題意識は相対的に低かった。対して、国交省は水道を含む街づくりは本来業務だ」
  • 「河川管理との連携にも期待をしたい。河川の水を取ってきて浄水して配り、下水で流し、防災にも役立てる。国交省が司令塔機能を果たしていける。『令和の列島改造論』のテーマの一つにいかがだろうか」