【コメント】
- 「おねだり型」日本政治に対する論評記事です。要点だけ記事概要に載せましたが、ポイントはここ!
最優先の政策テーマを明示し、主権者に国の針路を選択してもらうのが政治本来の役割である。政権にお灸(きゅう)を据える「一揆型民主主義」の発想では国際競争に立ち遅れる。
【記事概要】
- 今国会の焦点は、少数与党の石破内閣がどの野党と組んで25年度予算案の成立にこぎ着けるかだった。自民、公明両党と2月末に合意文書を交わしたのは維新で、政策連携の軸は高校授業料の無償化という結果となった。「高校授業料の『無償化』ではなく『税負担化』だ。所得制限も無しで、納税者の理解を得られるのか」「地方の公立高校は定員割れがどんどん増えている。県庁所在地の進学校と私立への集中が加速する」国の将来を左右する教育制度を短期間の協議で決めていいのかという声は根強い。
- 国民民主党などが提起した「103万円の壁」問題は、与党の再調整の結果、課税最低限を160万円に引き上げる一方で基礎控除を年収で変える方向となった。最低生計費に課税しないのが基礎控除の趣旨ならば、年収区分はおかしい。物価高への感度が鈍い政府・与党に対応を迫ったのは野党の功績だが、これは低所得者対策なのか、それとも経済活性化策か。狙いがわかりにくい。
- 今回の予算審議では、注目すべき変化もあった。立憲民主党の主導により衆院で初めて「省庁別審査」が開かれた。立民は予備費や各種基金の縮減などで約3.8兆円を捻出できると主張した。
- 維新は自公両党との3党合意の最終局面で社会保障改革の数値目標にこだわり、「国民医療費の総額を年間で最低4兆円削減することを念頭に置く」との一文が入った。維新の青柳仁士政調会長は医療費を重視する理由を「例えば年収350万円の方の所得税は年間約7万円だが、社会保険料は約50万円。逆進性が強い保険料を下げる方が手取りは増える」と説明する。市販薬と効果やリスクが似る「OTC類似薬」の公的医療保険からの適用除外、応能負担の徹底、医療のデジタル化が進めば大きな成果だ。
- 税や社会保障、教育という国の根幹の制度改革を野党がけん引している。政府・与党が財源などを理由に制度の安定性を損なうと反論しても、「国民生活に目を向けない前例踏襲の古い政治」と指弾されがちだ。石破内閣は何をめざすべきなのか。
- 首相が地方創生相だった10年前、愛読書の取材をしたことがある。田中美知太郎著「人間であること」を筆頭に挙げ、一節を読んでくれた。「日本では主権在民などと言いますが、一向に主権在民ではない。『生活が苦しい』とか『月給を上げろ』とかそんなことばかり言っている。こんなことを言うのは、決して主権者ではない。これは臣下臣民、サブジェクト、家来の立場です」令和の時代に同じ言い方をすれば物議を醸すかもしれない。だが自分が為政者ならどうするかを考えるのが主権者であって、その選択肢を示すのが政治家の仕事だという指摘はその通りだろう。
- 石破内閣の支持率急落を受け、与党で「このままでは参院選を戦えない」との悲鳴があがる。「選挙にらみのトップ交代は筋違い」と退陣論をけん制するのは野党。奇妙なねじれ現象を生んでいる。近年の首相交代劇の多くは、不祥事や政権運営の失敗への批判をかわす局面転換型だ。政権目標の完遂へ首相が進退をかけて選挙に臨む政策実行型は、05年の「郵政解散」など極めて例外的である。
- 米国のトランプ政権は昨年の大統領選で重点政策に掲げた不法移民、貿易不均衡、国際紛争などの解決に突き進む。国際秩序は大きくきしみ、各国の動きも急だ。
- ドイツは厳格な債務抑制の方針を転換し、長期の国防費増強にカジを切った。カナダは総選挙を4月に前倒しし、トランプ氏が言う「51番目の州」にならないための対米戦略のあり方を国民に問う。
- 日本政治の中心争点が裏金問題や商品券配布の是非でいいはずがない。野党もポピュリズムと裏腹の個別の政策要求だけではなく、税と社会保障の再設計、外交・安全保障を含む国家戦略の全体像をそろそろ示すべきだ。
- 既成政党が頼りにしてきた業界や労組、団体の組織票には陰りが見える。最優先の政策テーマを明示し、主権者に国の針路を選択してもらうのが政治本来の役割である。政権にお灸(きゅう)を据える「一揆型民主主義」の発想では国際競争に立ち遅れる。