【コメント】
- 決算発表が佳境を迎えている今朝、企業情報開示の記事がありました。
- ポイントは、有価証券報告書の株主総会前開示です。株主総会前に企業の詳細が記載されている有価証券報告書を投資家が熟読し、株主総会の有効化を図ることが狙いです。
- しかし上場企業は、金融商品取引法と会社法に加え証券取引所の規定により多くの開示資料を求められており、これに対応するために莫大な労力を使っています。
- 米国は基本的に求められる開示は日本よりシンプルですし、株主総会開催の期日も日本より遅めで良いということになっています。
- 日本は、監督官庁が複数のため企業に負担を強いている感が否めません。これも日本企業の競争力を阻害している一因だと思います。近年やや解消されつつはありますが早急にドラスチックな改革が必要と感じます。
- この複雑な開示への対応はいわゆる「上場コスト」です、他人資本を調達して事業を行うからには当然といえば当然のコストです。これを勘案すると、上場し資本市場から資金調達をする必要性が少ない企業、言い換えれば創業者が単に個人の富を得るための上場はよく考えるべきと思います。このような意識での上場は、当該企業にとっても投資家にとっても最終的には決してプラスではありません。上場維持基準強化の早期厳格化が投資家保護の観点で必要と思われます。真に社会貢献が可能な企業は、上場せずとも銀行融資が受けられますので。
【記事概要】
- 企業開示は投資家にとって最重要の情報源だ。正確で豊富、かつ迅速であることが必要だ。株主総会前の有価証券報告書開示の動きは、一般論としてはこの要請に沿う。
- だが上場企業は、すでに金融商品取引法上の半期報告書と上場規程に基づく決算短信に加え、投資判断に影響を及ぼすような重要情報には、適時適切な開示義務を負う。また、図表や写真を駆使した統合報告書やサステナビリティー報告書、株主通信などの任意開示も進めている。投資家向け広報(IR)活動や投資家との対話も盛り込んだ。
- さらに会社法により、株主総会の2週間前までに総会招集通知が交付され、事業、財務情報などが数十ページにわたって記載されている。
- 企業の作業量は膨大である。最近は経営戦略・課題や人的資本、ESG(環境・社会・企業統治)、多様性などの非財務情報の開示も求められており、負担は増すばかりだ。
- もちろん、企業は株主に応えるための手間を惜しんではならない。だが、以上に加えて有報の総会前開示が、費用対効果に見合うか否かは十分に検討しておくべきだ。確かに総会通知書では、有報に掲載される政策保有株やキャッシュフロー計算書、監査上の主要検討事項の記載などが義務付けられていないが、期中の開示に加えて、これらがなければ、総会で意思決定ができないものなのだろうか。
- プロ投資家なら総会前の1、2週間で、1社200ページ近い有報を何十社も読みこなせるかもしれない。しかし、増加している個人投資家はどうか。大半の個人には難しい。分量のみならずかなりの財務、会計の知見を要するし文章も専門的で読みにくい。ウェブ上の分析作業は専門家にも楽ではない。
- 有報の総会前開示については10年ほど前から話題になっていたが、直接のきっかけは昨年、海外の有識者から提言されたことにある。だが、なんでもグローバルだからと即断してよいのか。上記のような事情とともに決算日から総会までの期間は日本が3カ月以内なのに海外では4、5カ月という違いもある。
- 急ぐべきは、事業報告書、有報、短信といった会社法と金商法、取引所それぞれの三様の開示の交通整理である。また、とくに個人投資家にとっては分量よりも平易な開示が重要課題だ。