消費税減税よりも重要な争点 中空麻奈 BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250516&ng=DGKKZO88685830V10C25A5TCR000
【コメント】
  • さすが、中空さんです!
  • 消費税減税に関する整理された見解です。短文ですのでご一読を。
【記事概要】
  • 物価が高い。消費者物価指数は生鮮食品・エネルギーを除く総合で、2024年10月から3%超(3カ月移動平均年率)となっている。中でもコメ価格は、25年3月までの年産平均が60キログラムあたり24500円と、比較可能な1990年以降では最高だ。
  • 政府は物価高対策としてエネルギー補助金などを出してきたが、選挙が近づくにつれ「消費税減税」の大合唱が聞かれるようになった。野党は時限的な措置として、一律5%にする案や食料品は2年限定で0%にする案などをまとめている。消費税減税に反対だった立憲民主党も「食料品は1年間0%」に方針転換した。自民党でも参議院を中心に減税要求の意見は多い。
  • 消費税減税のプラス効果は、インフレの鎮静化と消費に対するインセンティブを高めることだ。とはいえ、労働市場は既にタイトで需要の伸びを賄える供給が可能かどうか、いずれ検証が必要になる。しかも、安易な導入には問題も多い。3つ指摘する。
  • 第一に財源だ。国債発行で賄おうというのは無責任極まりない。24年度の一般会計歳入で消費税分は約23.8兆円。このうち食料品は5兆円程度だ。恒久的な財源すら見つけられない中、それだけの国債増発をどうするのか。
  • 第二に期限である。時限措置として訴えている政党が多いが、日本ほど期限を守れない国もない。1年だけ税率を0%にして、すぐに戻せるはずもなく、だらだらと激変緩和措置を続けることになりかねない。これでは、財政健全化はとても果たせない。
  • 第三は高所得者にも減税する必要があるのか、という点である。物価高は低所得者の生活への影響が大きく、逆進性のある消費税を減税すれば当然、低所得者に恩恵がある。だが、高所得者ほど減税額が大きくなるのも事実で、ピンボケの物価高対策になる恐れもある。これが本当に必要な対策だろうか。
  • 選挙が近づくと、どうしてもポピュリズムに流れがちだ。しかし、増えた借金の返済義務を負うのは他ならぬ我々だ。国民生活を守るため、国民から借金をするのでは本末転倒である。こんな争点ではなく、もっと本質的な議論を展開していただきたい。
  • 提案したいのは行政情報を相互に利用できるようにする「ガバメント・データ・ハブ」の構築である。給付金や減税に頼った生活支援はコロナ禍の二の舞いになりかねない。にもかかわらず、国民や家計の実態や公的給付に関する情報は十分把握できておらず、情報があっても行政機関同士の共有は進んでいない。
  • 現状では、物価高騰で生活に支障が出ている家計がどのくらいあるのか、特定できていない。特定できなければ適切なサポートもできない。これではなんのためのマイナンバーだったのか。「物価が上がって大変」といった程度の認識では、バラマキ以上のことはできないだろう。
  • ターゲットを絞った適切な経済政策にはデータが重要で、その共有基盤構築は争点にすべきポイントの一つだ。上辺だけの政策は選挙前にメッキがはがれかねない。国民はちゃんと見ている。