「近年にない明るさ」課題は 経財白書を分析 名目GDP拡大・賃上げ実現 成長型経済へ分岐点
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250730&ng=DGKKZO90346730Q5A730C2EA2000
【コメント】
  • 2025年度の経財白書が公表されました。
  • メッセージは「近年にない明るい動き」とのことです。このメッセージを見るとポジティブな内容が記載されているのかと思いきや、ちょっと心配な現状が分析されています。賃上げはすすんでいるが、物価上昇が激しく個人消費が振るわないと言う、参院選で各党が訴えていた状況が醸し出されています。
  • 賃金は広くあまねく過去三年間上昇を続けています。これは過去20年にはない傾向です。一方この賃上げが将来も継続すると思うかといえば、そうは思っていないと感じている国民が約6割を占めるようです。戦後の高度経済成長時代とは違い、継続的に賃上げが行われる理由が不透明だからです。このように将来に対する楽観が社会通念として形成されていないことから、各年代とも消費性向の低下は止まっていません。
  • 物価は、食品をはじめ、サービス、教育、家賃など何十年も価格が上がらなかった分野が、ここ数年で急激に上昇傾向にあるようです。
  • 物価が激しく上昇している現状と将来賃金上昇が継続するか疑わしいことが、消費者心理を悪化させています。冒頭のキャッチフレーズは単に「そうは言っても明るくいこうよ」という内閣府のかけ声なのでしょう。
【記事概要】
  • 日本経済が賃上げを起点とした「成長型」への分岐点にある。内閣府が29日公表した2025年度の経済財政報告(経済財政白書)で、賃上げの現状などに触れて「近年にはない明るい動き」があるとの認識を示した。消費に鈍さが残るなか、物価の伸びを上回って賃金が上昇する好循環を定着させる必要がある。
  • 今年度の白書は賃金や消費の分析に多くを割いた。賃金や物価は過去四半世紀の「凍りついた状況」から脱し、ともに緩やかに上昇する好循環が見られ始めていると記した。
個人消費カギ
  • 日本経済の現状に関して、白書では600兆円を超えた名目国内総生産(GDP)や33年ぶりの高さだった24年を上回る賃上げ率などを列挙して「近年にはない明るい動き」と評した。ここから「分岐点」を越えて成長の道へと進むためにはGDPの過半を占める個人消費がカギを握る。
  • ただ、その消費は決して好調とは言えない。可処分所得に対する消費支出の割合を示す「平均消費性向」は低下傾向にあり、賃上げ率が高い割にはお金を使わない節約志向が表れている。
  • 白書が要因としてあげたのが、物価上昇が続くとの予想が消費者心理を悪化させていることだ。
  • 内閣府が3月に20~69歳の1万5千人を調査したところ、この1年の物価の伸びをふまえて同様の動きが続くと予想した人は全体の8割に上った。物価の上昇が続く場合の消費について聞いたところ「減らす」「変えない」が9割を占めた。
  • 日本は宿泊や教育といったサービス分野の物価上昇率が米国やユーロ圏より低く、20年ごろまでおよそ20年間はほとんど動きがなかった。今回の物価上昇局面では、このサービス物価の上昇率が2%に近づきつつあり、全体の物価を押し上げている。
  • 岩盤と呼ばれるほど動きに乏しかった分野の価格も上昇し始めた。東京都区部の家賃に関して不動産サイト「SUUMO(スーモ)」のデータを内閣府が独自に分析したところ、23区の募集家賃指数はおよそ9年間で2割ほど上がっていた。
  • 総務省の物価統計は現在住んでいる住居の家賃を見ており、募集中の家賃よりも安い場合がある。家計に占める家賃の割合は高く、東京を起点に上昇の動きが各地に広がれば、家計の節約志向をさらに高めかねない。
  • 長くデフレが続いてきた日本で、物価が上昇基調に入ったことは経済の正常化という点で評価できる。日銀も利上げに踏み出し、「金利ある世界」に戻った。物価上昇が続くなかでも消費を喚起するためには、持続的な賃上げが欠かせない。
上昇継続信じず
  • 白書では賃金の上昇率が高まっているものの、上昇の「ノルム」は確立されていないと強調した。「ノルム」は社会通念と訳され、賃金が上がり続けるとの認識が日本の社会では定着しきっていない状態にあることを説明している。内閣府の調査では、5年後の給与所得について6割近くが「今と変わらない」または「低下」と答えた。
  • 若年層でも賃金は変わらないと回答した割合は高く、消費性向の平均が下がった状況にある一因だと分析する。バブル崩壊後に就職した世代はこれまでに賃金が十分に上がってこなかったために、賃上げが続くことに懐疑的になっていると指摘した。
  • 同じ調査で消費を増やすための条件を聞いたところ、「給与所得の増加」が6割超に達し、最も高かった。
  • 7月の参院選では各党が給付や減税を物価高対策としてかかげた。一度きりの臨時の所得増加では効果が限られる。基本給の底上げといった持続的な所得の増加への確信が深まらなければ、節約志向を取り払うのは難しい。
  • 雇用の流動性の低さも問題点にあがる。白書では男女とも転職希望をもつ人の割合が上がっている一方で、転職率は横ばい傾向にあるとの現状に触れた。
  • 転職の経験者は転職活動に積極的だとの分析を提示し、経験のない人への支援などがハードルを下げるとの見方を示した。制度面では退職金制度を「後払い賃金の一種」とみなし、自己都合退職の場合に退職金を減額する慣行が労働移動を妨げている可能性があるとした。転職もしやすい環境を整えることが求められる。
  • 経済財政白書は戦後の1947年に「経済実相報告書」として発行されてから、今回で79回目を迎えた。80回目となる来年度の白書が「分岐点」を越え、成長軌道に乗ったとの見解を示すことができるか。賃上げや消費の動向が成否を分ける。