プラザ合意40年、金に群がる中銀 忍び寄る「通貨Gゼロ」の世界https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGR1101H0R10C25A8000000/
【コメント】
- 金価格の上昇が止まらないようです。
- ドルの信任が揺らぎ、他の通貨の信任が見極められない中での消去法的な金購入とのことです。各国中央銀行は引き続き金を購入しています。
- 人類がこれまで採掘した金はオリンピックの公式プール約4杯分にすぎず、これが希少性に繋がっています。
- 中国はこの希少性を鑑み、金採掘を加速度的に進めているようです。「金価格に上限はない」「すでにピークだと思ったら投資機会を逸することになる」と強気の姿勢を示しています。
- 金は、今後起こり得る株価の暴落へのヘッジとして有効なのかもしれません。(投資は自己責任で!)
【記事概要】
- 米国・マンハッタン。ニューヨーク連邦準備銀行の地下24メートルに重さ90トンの鋼鉄製シリンダーで堅く閉じた部屋がある。入り口の横にかつてドイツの詩人ゲーテの言葉が掲げられていた。「金には抗(あらが)えない」
- 部屋に眠るのは約6300トンの金塊。時価換算で約7000億ドル(約103兆円)という途方もない規模の金塊は日銀を含む中央銀行や外国政府、国際機関からの預かり物だ。その量は1つの金庫として世界最大だ。
- 8月12日、内部の様子について一切口外しないことを条件に、NY連銀の担当者ら2人の立ち会いのもと約10分間、取材班はこの金庫の中に入った。金が積み上がるさまは人々の金への揺るぎない信頼を物語る。半面、第2次大戦後に国際社会が築いてきた秩序が揺らいでいる事実を照らし出す――。偽らざる実感だ。
- それぞれの国が自国通貨の価値を金で裏付ける「金本位制」が確立したのは1816年の英貨幣法に遡る。次の転機は1944年、大戦後の国際的な通貨枠組みブレトンウッズ体制でドルを金と交換できる「金・ドル本位制」へと移った。金とドルの交換を停止した71年のニクソン・ショックを経て、金の力を借りずにドルが基軸通貨の役目を果たす「ドル本位制」が到来した。
- 延長線上に訪れたのが85年、日米欧の主要国がドル高是正で協調したプラザ合意だった。代替できない価値をどの国もドルに認め、比類なき国際協調が実現した。戦争や経済危機などの例外はあっても、金を売りドルに換える、という行動が中銀に染みついた。
- その光景は一変しつつある。ドルに押し出されたはずの金に、世界中の中銀が再び群がり始めた。背景にあるのは金の人気よりもむしろ、ドルへの不信の高まり。貿易戦争を辞さず、政府債務を顧みず、地政学不安をあおるかのような米政府の振る舞いに世界の中銀がじわりと背を向ける。
- ワールド・ゴールド・カウンシルなどによると中銀による金保有量は、ブレトンウッズ体制下の65年と同水準の3万7千トン台に戻っているとみられる。中銀の準備資産に占める割合も2024年、金がユーロを上回り、米ドルに次ぐ資産になった。その一部がニューヨーク連銀の地下に眠る。
- 勢いは止まらない。ポーランド国立銀行(中銀)のグラピンスキ総裁は「特定国の経済政策に左右されない最も安全な準備資産」としてそれまで金を外貨準備の2割へ引き上げるとしていた目標を、25年9月に3割へ引き上げた。インドネシアやタイといったアジアの国々も金の積み増しに動いている。金の価格は対ドルで2年前の2倍に膨らんだ。
- 中国は金の価格形成への影響力を広げようと動き出した。上海黄金交易所は6月、投資家や外国機関から金を預かるための「オフショア金庫」を香港に初めて開いた。人民元での金取引を世界に広げる狙いと目される。ロシアもサンクトペテルブルク商品・原料取引所で金取引をスタートする。
- ドルを発行する米国ですらドル不信が渦巻く。米連邦準備理事会(FRB)が進めた金融緩和を「無制限の紙幣発行」とあげつらい、インフレや金融不安を招く元凶だと批判する過激な論調も流布する。保守派の間ではFRB解体論や金本位制復活論まで浮上し、世界の不安に拍車をかける。
- もっとも、現実には金本位制復活へのハードルは限りなく高い。人類がこれまで採掘した金はわずか20万トン、オリンピックの公式プール約4杯分にすぎない。マネーが膨張した現代の金融市場と経済を支えるのは事実上、不可能だ。金をキャッシュに換える機会は限られるので、中銀が保有を膨らませたところで為替介入などの政策に素早く使えるわけではない。
- 米カリフォルニア大バークレー校のバリー・アイケングリーン教授は「ドルに代替する次の通貨が見えないことが根源にある」と読み解く。消去法としての金投資は、どの通貨も選べない「通貨Gゼロ」の一断面とも表現できる。
- その先に何が起こるのか。「金融、経済、政治の大きな変動がこれからの数年で生じる」。著名投資家レイ・ダリオ氏が語る可能性は大げさとは言い切れない。ドルの魅力と反比例するようにマネーが分散し、基軸なき世界の勝ち筋を求め、新しい秩序を形作る。金の異常な人気ぶりはその序章にすぎない。