給付付き控除、なぜ実現難しい? 所得把握・支払い体制後れhttps://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250926&ng=DGKKZO91538970V20C25A9EA2000
【コメント】
- 自民党総裁選での主要論点である物価高対策で、「給付付き税額控除」が論点になっています。
- 基本的に税額控除を行いますが、税金を控除可能額まで支払わない世帯には差額を現金で渡すという制度です。
- これまで何度も議論されてきているようですが、 ①所得捕捉の困難さ ②支払事務負荷と混乱 などいまだに多くの課題が放置されたままです。
- マイナンバー制度が完全確立していれば、課題の相当部分が解消されているのでしょうけれど、、、。日本の妙な個人主義とIT化の遅れが政策の間口を狭めています。
- いずれにしても、近々の物価高対策は「消費税減税」しかないように思われますが、どうなのでしょうか?
【記事概要】
- 自民党総裁選の物価高対策の議論で浮上した給付付き税額控除。実は消費税率引き上げを決めた、2012年の社会保障・税一体改革大綱で「検討」をうたった政策だ。いまだに実現していないのはなぜか。
- 給付付き税額控除は所得税の一定額を控除、いわば減税し、引ききれない分は現金を払う。10万円の給付付き税額控除なら、所得税額15万円の人は納税額が5万円に減る。所得税額5万円の人は納税がなくなり、控除しきれず残った差額5万円の現金を受け取れる。所得税がゼロなら10万円の現金給付を受ける。
- 所得税の減税は高所得層ほど有利になる問題がある。減税と給付を組み合わせることで、欠点を補うことができる。
- ではなぜ実現していないのか。最大の壁は公平性を損なわない所得の正確な把握だ。まず預貯金や不動産、株式などから得られる資産所得は簡単にはわからない。
- 収入も、例えば国税庁は源泉徴収票で給与所得者の所得が分かるものの、年収500万円以下は提出が不要のため住民税を徴収する自治体との連携が必要になる。ここに副業も絡むと把握はより困難になる。さらに自営業者やフリーランスは確定申告で所得を捕捉するが、申告のない非納税者は特定できない。
- 英国の給付付き税額控除「ユニバーサル・クレジット(UC)」の日本版導入を提唱した林芳正氏は「1億人、全部の世帯を調べるのは不可能で、モデル世帯を抽出して保険料・税・子育て負担・収入と家計簿を付けるように情報を把握する」との考えを示した。
- 給付金を支払う体制も課題になる。マイナンバーである程度の情報は名寄せできても、新しい給付対象の照合作業は増える。マイナンバーとひも付いた公金受取口座がインフラになりうるが、口座数はまだ6300万ほどにとどまる。登録していない人からは振込先などの申請を受け付ける業務も発生する。
- 給付金の支払事務を担う地方自治体からはいまでも「作業負担が重い」との不満が漏れる。給付付き税額控除の事務はより複雑となり、自治体に委託し続けることができるか不透明だ。
- 国が給付主体になるなら、省庁の人員を増やすか再編しなければ実現が難しいとの見方がある。日本総合研究所の西沢和彦理事は「国税庁や自治体の税務行政、日本年金機構などを統合した『歳入庁』機能が必要」と話す。クラウド上に税と給付に関わる情報を一元的に集めればバーチャルに運用することもできる。
- 英国では元々あった給付付き税額控除が他の給付制度と並立し、過誤支給や不正受給が起きたことなどから、現行のUC制度に至った。小泉進次郎氏は既存の生活保護制度などとの整理に問題意識を示しつつ「英国でも議論してから15年でようやく定着し始めた息の長い取り組みだ」と指摘した。