「所得税の損益通算とは?~事業所得、不動産所得が節税といわれる仕組み~」という記事で、「事業所得、不動産所得が節税になる」という話をしました。
この不動産所得、不動産投資の側面からも、確定申告の側面からも注意しなければならないことがたくさんあります!
今回は不動産投資について税務上の観点を踏まえ、それぞれの時点で注意しなければならないことをまとめました!
次回は申告時に留意すべき事項をまとめますので、あわせて読んでみて下さい。
なお、こちらは事業的規模でない不動産投資(=不動産所得)を前提に記載しておりますので、ご留意ください。
【不動産購入時 ~「節税」というフレーズに注意!~】
「所得税の損益通算とは?~事業所得、不動産所得が節税といわれる仕組み~」という記事で、不動産投資も赤字の場合は他の所得(給与所得等)と損益通算できるため節税になることを記載していますが、赤字を無理に作ることによって、キャッシュフローが滞ってしまっては本末転倒になってしまいます。
特にサラリーマンの方で節税目的のためにワンルームマンション投資等に検討不足のまま手を出してしまうと結果的にキャッシュフローが滞ってしまうリスクがあります。
そのような事態にならないよう、物件購入前には節税等のプラスの効果を持つ良い赤字と、キャッシュフローを滞らせる要因となるマイナスの効果を持つ悪い赤字の違いを理解した上で購入するかどうかの判断をされることをお勧めします!
<節税等のプラスの効果を持つ良い赤字とは?>
良い赤字、悪い赤字の違いは帳簿上の収支とキャッシュフローが一致しないことによって発生します。
税金は所得≒帳簿上の収支に応じて課税されるため、帳簿上が赤字であれば税金はかかりません。キャッシュフローがプラスになる赤字は、税金がかからない分、キャッシュが手元に残ることになります。
反対にキャッシュフローがマイナスになる赤字は、悪い赤字となります。
では帳簿上の収支とキャッシュフローが一致しない要因はなんでしょうか。
主な要因は減価償却費という経費の存在です!減価償却とは資産の価値を帳簿上減額させていく手続ですが、帳簿上価値が下落してもキャッシュが手元から出ていくわけではありません。
しかし経費として収入額から控除することができるため、収入から経費を控除することによって算出される所得額が少なくなり、支払う税金が減る※=節税効果がある良い赤字といえます。
反対に悪い赤字とは、空室等によって家賃収入よりもローン支払額が多かった場合等が該当します。この場合、所得が少なくなり支払う税金が減るというプラスがあるものの、ローンの支払額増というキャッシュフローの悪化によるマイナスがあるため、キャッシュが手元にのこらず悪い赤字といえます。
節税ばかりに焦点を当ててしまい、手元にのこるキャッシュが減るというのは本末転倒です。
赤字にも良い赤字と悪い赤字があるので違いを理解した上で物件購入検討されることをおすすめします!
なお、減価償却は課税の先延ばしです。減価償却により利益を圧縮してもその分帳簿上の資産額(帳簿価額)は減ります。
売却時には課税される「譲渡益」は「収入額-帳簿価額」で算出されることになるため、売却時に課税が生じます。
詳細は後述の【売却時】の留意点ごご覧ください。
【保有時~減価償却費のポイント~】
では不動産購入後はどんなことに留意すべきでしょうか?
ここでもポイントは減価償却費です!
不動産投資は、取得する物件によっては、購入後しばらくは赤字になることがあります。これは、購入時の留意点でもあげましたが、多くは減価償却が生じるためです。
※空室による赤字は上記の通り悪い赤字なので、注意!
この減価償却費、2つポイントがあります!
①新築物件?中古物件?耐用年数について
減価償却とは資産の価値を帳簿上減額させていく手続ですが、この処理は耐用年数に応じ徐々に費用化され、不動産所得算出時に必要経費に含めることができます。
この耐用年数、物件によって異なるため同じ5,000万円で取得した建物でも、資産の構造、用途、及び新築か中古か等によって年数が変わってきます!
この耐用年数は①法定耐用年数を確認(木造で住宅用のものは22年、コンクリート造りで住宅用のものは47年等)、②中古の場合は中古資産の耐用年数を計算※することにより算出できます。
法定耐用年数はこちらで確認できます。
※中古資産の耐用年数は以下のような計算が必要になります。
詳しくはこちらをご覧ください。 (1)法定耐用年数の全部を経過した場合(例;築30年の木造物件を購入) →その法定耐用年数の20%に相当する年数 例:法定耐用年数22年×20%=4年(端数切捨て)
(2)法定耐用年数の一部を経過した場合(例;築15年の木造物件を購入) →その法定年数から経過した年数を差し引いた年数+経過年数×20% 例:(法定耐用年数22年-経過年数15年)+経過年数15年×20%=10年 |
節税目的の不動産投資の場合は、どのくらいの期間で赤字を生み出したいのか検討し、物件を選ぶ必要があります。
②減価償却費を必要経費に含めてはいけない場合がある!?
2021年分の所得税から、減価償却費を必要経費に含めることができない不動産があることはご存じでしょうか?
それは海外不動産です!
後述の【海外不動産投資に関する税制改正】にて詳しく説明していきます。
【売却時~総合課税と分離課税の違い~】
では購入した不動産を売却する際、どのようなことに気を付ければいいのでしょうか?
ポイントはこちらの2点です!
(1)売却タイミング
(2)減価償却費の節税効果について |
(1)売却タイミング
不動産売却時には売却時の市況を気にされる方も多いですが、あわせて保有期間にも注意が必要です。
土地や建物を売ったときに生じる譲渡所得は分離課税(後述)といって、総合課税と異なる税率が適用されます。
この税率、保有期間によっては約19%異なってきますので、なるべく5年超所有してから売却されることをお勧めします!
一方、譲渡所得が生じない(譲渡所得がマイナス)の場合は当該所有期間に影響を受けることなく税金は0円となります。
上記の悪い赤字が生じ、更に譲渡所得がマイナスになるようであれば早めに売却される方が、損失が膨らまずに済む場合もあります。
ご自身の保有されている物件の状況、市況、保有年数を考慮し、売却タイミングを検討するといいでしょう。
区分 | 所得税 | 住民税 |
長期譲渡所得
(所有期間5年超) |
15% | 5% |
短期譲渡所得
(所有期間5年以内) |
30% | 9% |
出典:国税庁HP
(2)減価償却費の節税効果について
不動産所有時に生じる賃貸収入は不動産所得=総合課税、売却時はほかの所得と区分して計算する分離課税が用いられます。
総合課税は「法人化のタイミングは?~税金面からみる適切な法人化のタイミング~」で紹介したように、
超過累進税率が適用され、最大55%(所得税45%、住民税10%)の税率が課されます。
一方で、土地や建物の譲渡所得は所有期間が5年超の場合は長期譲渡所得として20%(所得税15%、住民税5%)となります。
この税率の違いがポイントとなります!
前述の通り、減価償却は課税の先延ばしです。減価償却により利益を圧縮してもその分帳簿上の資産額(帳簿価額)は減ります。
売却時には課税される「譲渡益」は「収入額-帳簿価額」で算出されることになるため、売却時に課税が生じます。
しかし、総合課税対象となる所得額が330万円超の方の場合、
物件所有時に発生する減価償却費等の経費は、税率の高い総合課税対象となる不動産所得の必要経費として計上することで、
所有中に減価償却費を経費計上しなかった場合に比べ、
減価償却費×(総合課税税率―分離課税税率)分、税金が安くなります!
実際に数値を入れてみてみましょう!
前提:木造築30年の物件を建物10,000万円、土地10,000万円の計20,000万円で購入。
購入時:別途事業所得等の所得7,000万円。賃貸収入500万円。 支払利息やその他の経費は無しと仮定。
購入から5年超経過後、建物10,000万円、土地10,000万円の計20,000万円で売却。
売却時:別途給与所得等の所得7,000万円。賃貸収入500万円。 支払利息やその他の経費は無しと仮定。 |
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①減価償却費を計上した場合
物件所有時
5年超経過後、売却
物件所有から売却までにかかる所得税及び住民税額
可処分所得 =(賃貸収入500万円+事業所得7,000万円)×5年+売却価格20,000万円 +6年目所得7,000万円―購入時価格20,000万円―税金20,975万円 =23,525万円
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②減価償却費を計上しない場合
物件所有時
5年超経過後、売却
物件所有から売却までにかかる所得税及び住民税額
可処分所得 =(賃貸収入500万円+事業所得7,000万円)×5年+売却価格20,000万円 +6年目所得7,000万円―購入時価格20,000万円―税金24,475万円 =20,025万円
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可処分所得(手元に残るお金)を比較すると、
- 減価償却費を計上した場合⇒可処分所得:23,525万円
- 減価償却費を計上しない場合⇒可処分所得:20,025万円
となり、①減価償却費を計上した方が、可処分所得が多いことがわかります!
この①と②の差額が、減価償却費計上による節税額となり、
減価償却費を計上すると
減価償却費×(総合課税税率ー分離課税税率20%)※が節税になる!
ことが分かります。
※売却価額が購入価額を下回った場合は
減価償却×総合課税税率―①の譲渡所得に関する税金が節税分となり節税額は上記より増加しますが、可処分所得額は上記①より減ることとなります。
また、総合課税税率(所得税率+住民税率)が20%未満の方=課税所得が330万円未満の方は減価償却による、分離課税税率との税率ギャップによる節税メリットがありませんのでご注意ください。
【海外不動産投資に関する税制改正】
【保有時~減価償却費のポイント~】にて、海外不動産の減価償却費が2021年から必要経費に含めることができなくなった、という旨記載しました。
取得時から売却時までのポイントを意識した上で、解説していきます。
<海外不動産投資が富裕層に人気だった理由>
そもそも、なぜ海外不動産投資が人気だったのでしょうか。
ポイントは、日本と海外における中古物件の価値の違いです!
日本における木造中古物件は、耐用年数を超えた建物の価値が低くなる傾向にあります。
一方、アメリカ等では中古の木造物件が多く流行しており、法定耐用年数を超えた物件も需要があり建物部分の実質的価値も残存します。
そのため、日本において中古物件を購入するよりも、海外中古物件を購入した方が売却をしやすいのです。
そのため、日本ではほとんどの木造中古物件が購入時価額>売却時価額となるところ、米国を中心に購入価額≦売却価額となる場合も多くあります。
富裕層ほど総合課税の税率は高くなり、減価償却費による節税効果を享受でき、更に購入価額≦売却価額となることで、日本にて不動産投資を行った場合より可処分所得が多くなります。
そのため、富裕層の間では当該不動産投資が人気でした。
しかし、2021年からは当該スキームが利用できなくなります。
2020年度税制改正大綱によると国外中古建物について下記のように改正されています。
個人が、令和3年以後(2021年以後)の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その損失の金額のうち、国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。
⇒つまり、不動産所得が赤字となった場合、減価償却費は必要経費に含めることができなくなります。
大きく言うと、上記例の①減価償却費を計上する方法がとれなくなる※ということです!
※減価償却費の計上自体が否定されるのではなく、不動産所得が赤字にならない分まで(上記例の場合は500万円まで)は減価償却費として必要経費に含めることができますが、不動産所得で赤字が生じないため、損益通算のメリットを享受することはできません。
※必要経費に含めていない減価償却費については売却時には帳簿価額への加算が可能です。
海外不動産を所有されている方、またはこれから購入予定の方はご注意ください。
【まとめ】
不動産投資をする際は、税務上の観点からは以下の点に気を付けましょう。
購入時:節税というフレーズに注意!
いい赤字を生み出してくれる物件を選びましょう!
保有時:物件によって、1年に計上できる減価償却費の額が異なる点に注意! 節税目的の不動産投資の場合は、 どういう期間で赤字を生み出したいのか検討し物件を選びましょう! 海外不動産の減価償却費は2021年から税制が変わるので注意!
売却時:売却タイミングは保有期間も意識しましょう! 保有期間によって税率が変わります。 |
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