会社が大きくなり、会社に余剰資金が溜まってくると
余剰資金を運用したい!という要望が生じます。
資金の運用には様々な手段がありますが、今回は株式運用について
法人で運用する方法と個人で運用する方法、どのように違ってくるのかご紹介します。
【税金面での違い】
法人での株式運用、個人での株式運用の違いは税金面、手続きの面の2点で大きく異なってきます。
法人 | 個人 | どっちが有利? | |
① 税率 | 33.58%
※資本金1億円以下、所得800万円超の場合 |
配当金
20.315%※ 譲渡損益 20.315% ※上場会社株式の場合 |
個人 |
② 損益通算 | 営業活動等、他の事業活動により生じた損益と相殺可 | 他の所得と相殺不可
|
法人 |
③ 欠損金繰越期間 | 10年 | 3年 | 法人 |
④ 評価損益の処理 | 評価損益を税務上も計上
※売買目的有価証券の場合 |
評価損益は課税対象とならない | 個人 |
⑤ 経費計上 | 可能 | 不可 | 法人 |
①税率の違い~約13%も違う!~
大きく異なる点は税率です。
法人の場合は配当も譲渡益も売上と同様、所得金額を構成し、所得金額に33.58%の税率が課されます。
一方、個人の場合、多くの方が証券口座を「特定口座(源泉徴収あり)」としていると想定されます。当該口座では、配当金が支払われた場合に所得税と住民税が源泉徴収(配当額×20.315%)されており、その時点で納税関係が完了していることから他の所得等がなければ確定申告は不要です。
また、株式を譲渡した場合の譲渡所得については分離課税対象となり、所得額に応じて税率が異なる総合課税と異なり、税率は一定の20.315%が課されます。
よって、税率面では法人:33.58%、個人:20.315%と、個人で株式運用を行う方が法人の場合よりも約13%有利です!
②損益通算の違い~法人は他の所得と相殺可!個人は他の所得と相殺不可~
法人の場合は、法人税法上所得に区分が設けられていないため、所得金額の計算に際して営業利益等の利益と、株式投資により発生した評価損、譲渡損等の損失を相殺することが可能です。また、株式投資により益がでた場合は繰越欠損金と相殺可能です。
一方、個人の場合、所得税法上所得に区分が設けられており、株式投資により発生した譲渡損を他の所得区分である給与所得や不動産所得と相殺することはできません。
なお、他の上場株式等に係る譲渡損益との相殺や、上場株式等に係る配当所得等との相殺※は可能です。
※上場株式等に係る配当所得について申告分離課税を選択したものに限られます。
よって、損益通算という面では、法人のほうが所得種類を問わず損益通算可能になるため有利です。
③欠損金繰越期間の違い~法人10年、個人3年~
法人の場合、②に記載の通り所得に区分が設けられていないため、株式投資により発生した損失は営業利益等との相殺が可能です。相殺してもなお、所得金額がマイナスとなった場合は翌期以降10年間繰り越すことが可能となり、翌期以降所得がプラスとなった場合に相殺可能です。
一方、個人の場合、譲渡損失が生じた年の翌年以後3年間にわたって、確定申告により、翌年以降に発生する上場株式等に係る譲渡所得、上場株式等に係る配当所得の額から繰越控除可能です。
欠損金繰越期間という面では法人:10年、個人3年と、法人は繰越期間が長く、また、翌期以降繰越控除可能な所得種類が個人のように制限されていないという点で有利です。
④評価損益の処理~法人は資金獲得タイミングと納税タイミングがずれる!~
投資目的で株式を保有する場合、売買目的有価証券という区分になり、株式を譲渡していなくても保有している株式の含み損益を、毎期所得計算に反映することになります。含み益は売却しなければ損益分の利益をキャッシュとして獲得できません。一方で、所得計算においては当該含み益を所得に反映させるため、手元資金がない中で納税が必要となる可能性があります。
これからまだまだ値上がりしそうな株について、納税資金がないために手放す必要が発生するかもしれません。
一方個人の場合は、含み損益を所得計算に含めず、売却した場合のみ株式の値動きによる利益を獲得することとなるため、資金獲得のタイミングと納税タイミングにズレは生じません。
評価損益の処理という面では個人のほうが、資金獲得タイミングと納税タイミングにズレが生じないため、個人の方が有利といえます。
⑤経費計上について
法人の場合、株式投資に関連する費用(PCや書籍代等)は必要経費として他の営業費用同様、経費として計上可能です。
一方で個人の場合、株式は譲渡所得の計算において、株式の取得費用と譲渡に要した費用(手数料等)しか収入から控除できません。
この点、法人の方が有利といえます。
以上の①~⑤が税金面において異なる点です。
次に、手続きという点から、法人で行う株式投資と個人で行う株式投資を比較してみましょう。
【手続きの違い】
法人 | 個人 | どっちが有利? | |
① 申告要否 | 申告必要 | 不要 | 個人 |
② 所得の集計作業 | 取引報告書は暦年(1/1~12/31)のため、
法人の決算期に合わせ 自社で集計する必要がある。
|
証券会社が作成してくれる取引報告書を基に申告書に記入 | 個人 |
③ 口座開設 | 証券会社によっては
資本金●●円以上、というような制限あり。 |
制限なし | 個人 |
①申告要否~個人の場合は確定申告不要※、法人の場合は必要!~
個人の場合は特定口座(源泉徴収あり)で上場株式の譲渡を行っている場合、
原則、確定申告不要です。
※特定口座(源泉徴収なし)や一般口座で取引をされている場合は、原則、確定申告必要となりますのでご注意ください。
また、上場会社から受け取る配当金については「【税金面の違い】①税率の違い」で記載した通り、あらかじめ配当に係る税金が源泉徴収(配当額×20.315%)されているため、こちらに関しても確定申告不要です。
一方、法人はかならず申告手続きを行う必要がありますので、この点個人の方が有利といえます。
ただし、課税所得が900万円以下の方は、確定申告をする方が源泉徴収税率よりも低い税率で済むため、確定申告することをおすすめします。
これは所得税が超過累進税率といって、所得に応じて税率が増加(最小5%~最大45%)の一方で、上場会社の配当に係る源泉徴収税率は20.315%(所得税率15.315%、住民税5%)と一律であることによる影響です。
よって、所得税率及び配当控除※を加味した税率が、源泉徴収税率を下回る場合には確定申告をしたほうが配当に係る税額が少なくなるため、確定申告をするほうが有利となります。
この「所得税率及び配当控除※を加味した税率が、源泉徴収税率を下回る場合」というラインが、課税所得額900万円以下のため、課税所得額が900万円以下の場合は確定申告(総合課税)をおすすめします。
※配当控除についてはこちらのブログをご参照ください。
②所得の集計作業~個人は集計作業不要!~
特定口座の場合、毎年1/1~12/31までの取引を反映した「年間取引報告書」というものを証券会社が作成してくれます。
個人の確定申告は暦年によって行いますので、毎年1/1~12/31の所得に関して確定申告を行うことになりますが、所得計算期間1/1~12/31と「年間取引報告書」の期間1/1~12/31が一致しているため、別途集計作業は必要ありません。
一方、法人の場合は法人が決めた会計期間に応じ所得計算を行う必要があり、証券会社のHP等から「取引残高報告書」等を参照し、法人自身で損益等を計算する必要があります。
この点、集計作業の手間がない個人が有利といえます。
③口座開設~法人の場合は、法人口座の開設に制限がある場合も!~
個人で口座開設をする場合は口座開設にあたり資金額の要件等は特にありませんが、
証券会社によっては資本金100万円以上というような要件がある会社もあります。
そのため、個人のほうが有利といえます。
【まとめ 個人で株式運用がおすすめ!】
ここまで、税金面の違い、手続き面での違いから法人と個人での株式運用を比較しました。
それぞれ以下の通りメリット・デメリットがありますが、
納税額に大きな影響を与える「税率の違い」、「評価損益への課税」を踏まえると、
個人での株式運用のほうが有利といえます。
法人での株式運用 | 個人での株式運用 | ||
税金面 | メリット | ・他の所得と損益通算可 ・繰越欠損期間が長い(10年) |
・税率が低い(約20%) ・評価損益は課税対象外 |
デメリット | ・税率が高い(約33%) ・評価損益を税務上も所得計算に反映 |
・他の所得と損益通算不可 ・繰越欠損期間が短い(3年) |
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手続き面 | メリット | なし | ・確定申告不要 ・損益集計不要 ・口座開設に制限なし |
デメリット | ・確定申告必要 ・損益集計必要 ・口座開設に制限ある場合あり |
なし |
なお、会社における余剰資金を会社に移す方法についてはこちらのブログで紹介していますので合わせてご参照ください。
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