【コメント】
- 「上場の目的は?」。企業本当には株式上場の意味をどこまで理解しているのか改めて問い直す機会が迫っています。
- 3年前に東証は上場基準を変更し3年間を経過措置期間としましたが、この3月から厳格な基準が適用されます。2026年3月までに基準を満たさない企業があれば最短で2026年9月に上場廃止になります。
- ベンチャー企業の創業者の中には、株式上場をゴールと認識しているむきもあると思われます。自分とスタフに上場前にインセンティブとして株式を付与し、上場時の株価で大きな利益をあげることが目的化し、その後の企業成長に資金を充分に振り向けず企業価値の低下を招く例があります。
- 上場とは「資金調達手段」の一つであり、広く一般投資家から成長資金を得るためのものです。上場をしなくとも企業価値向上に必要な資金を金融機関から借り入れるという手段もあります。
- 上場すると企業は不特定多数の株主の所有物となります。この多くの株主に適時適切に当該企業の情報を伝える義務が生じ、また多くの株主の意見に応えていかなければなりません。事業活動推進以外に、この株主対応に多くの時間を割かなくてはならなくなり、半端ないコストがかかります。また創業者とはいえ経営者は株主総会でクビを宣告されることもあります。
- 上場を決意する際には、上場以後にも非上場時以上に企業価値拡大に邁進する覚悟を持って臨む必要があります。上場は創業者の金策の手段ではありません。
【記事概要】
- それぞれの企業が株式を上場する意義にしっかりと向き合い、価値を高め続ける経営に取り組む。そうした自覚を持った企業が増えれば増えるほど、日本の株式市場の魅力はもっと高まる。
- 東京証券取引所が2022年4月にプライム、スタンダード、グロースの3つの市場に再編してまもなく丸3年になる。当面の経過措置として、本来の基準を満たさなくても上場を維持したままでいられるよう猶予してきたが、3月以降はその期間が順次終わる。
- 今後は線引きの曖昧さが消え、市場区分の位置づけが明確になる。各企業がなぜ上場しているか改めて問い直す機会にしたい。
- プライム市場なら流通時価総額100億円以上といった上場維持基準がある。他の2市場も含め、上場維持基準を満たさない企業が昨年10月時点で267社あった。3月期企業であれば、今後1年間で改善が進まず未達のままだった場合、最短で半年後の2026年9月をもって上場廃止になる。
- 同時に東証は東証株価指数(TOPIX)の改革も進める。22年4月に約2200あった構成銘柄を28年7月に約1200まで絞る計画だ。TOPIXから外れた銘柄は投資家の資金流入が細る公算が大きく、市場での優勝劣敗が鮮明になる可能性がある。
- 一連の改革を上場企業が価値を高める契機にしていかねばならない。本来、株式を上場する原点は投資家から集めた資金で成長するためだ。創業者が上場益を得て満足し、その後の成長が止まってしまうのは本末転倒だ。