M&A「のれん」償却不要 企業会計、国際水準に 規制改革会議 新興の成長後押し
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20250527&ng=DGKKZO88939570X20C25A5MM8000
【コメント】
  • 日経一面トップの記事です。
  • 日本基準をIFRSや米国基準と同様にのれんの定期償却をしないことが政府の規制改革推進会議で検討されています。
  • 数ヶ月前にも同様な記事が日経で取り上げられていましたが、少しずつ現実味を帯びてきているようです。
  • 以前にもここで書きましたが、のれんに永久に価値があると考えることを危険です。個人的にはさっさと定時償却し償却後は身軽なバランスシートで事業運営をすることが望ましいと考えます。
  • この変更にはスタートアップの出口としてM&Aを活性化する意図があるようですが、そもそも心ある経営者ならば買収当初の定時償却という損益計算書上のコスト負担など気にしないはずです。M&Aの成否の目線はキャッシュフローです。投資した現金が何年後に回収され、何年後に適正な利回りを得られる現金を創出するかです。
  • そもそも企業を期間損益で評価すること自体に問題があります。期間キャッシュフローで評価することが適切です。金融取引の原点は「現金」なのですから。その意味ではEBITDA(Earning Before Interest Tax Amortization Depreciation : 償却費金融費用税前損益)で評価することが適切なのかもしれません。
【記事概要】
  • 企業がM&A(合併・買収)する際、「のれん」の償却を定期的にしない会計処理を認める制度変更の動きが出てきた。会計上の負担を軽くしてスタートアップなどのM&Aによる成長を後押しし、企業の新陳代謝を進める効果が期待できる。政府の規制改革推進会議が月内にもまとめる答申に盛り込む。
  • のれんはM&Aの際、相手企業の純資産額を上回って支払った代金のことを指す。買収先のブランド力や技術力など見えない資産の対価と位置づけられる。日本の会計基準では販管費として最大20年以内に定期償却する必要がある。
  • 国際会計基準(IFRS)と米国基準は買収先企業の価値を定期的に判定し、企業価値が下がったときのみのれんを減損処理する仕組みだ。
  • 日本基準を採用する企業は償却費を毎年計上する分、決算書上の営業利益が小さくみえる。M&Aの買収価格ものれんの償却費を考慮した上で提示しなければならないため、他国企業との競争に不利となりやすい。
  • スタートアップの買収を検討する企業からは「のれんの定期償却がネックになる」との声が多い。起業から間もないスタートアップは赤字企業が多く純資産も乏しいことから、のれんが大きくなり定期償却の負担が増えかねない。
  • 経済同友会が2023年に会員の経営者らを対象に実施したアンケート調査によると、7割超の企業がM&Aを検討する上でのれんの償却費が障害となっていると回答した。一方でIFRSを採用するには監査費用が重く、スタートアップや中小企業にはハードルが高い。
  • こうした状況を踏まえ、首相の諮問機関である規制改革会議がのれんの会計処理について「非償却」または「非償却か償却の選択制」に変えることを答申で提起する。日本の会計基準を定める企業会計基準委員会(ASBJ)に検討を要請する。
  • 実現すればスタートアップの成長につながる効果が見込める。M&Aをしやすい環境になるだけでなく、起業家が投資資金を回収する「出口戦略」としてM&Aの対象になりやすくなる。厳しい基準をクリアする必要がある新規株式公開(IPO)以外の手法となり得る。
  • のれんを定期償却しない会計処理をすると、買収先企業の業績が悪化した際に損失を一気に計上する必要がある。企業が迅速に計上しないケースも想定され、投資家にとってはリスクが見えにくくなるとの指摘がある。
  • のれんの定期償却は日本が1990年代後半から進めてきた会計改革で最後まで残る課題の一つだ。定期償却しない会計処理の容認は内外基準の差を埋めるにあたり、長年の懸案を解消することを意味する。
  • 日本の会計基準はかつて海外と大きく異なり、日本基準を採用する企業の企業価値は海外投資家から割り引かれて評価されてきた。日本と海外の基準が近づけば業績比較が容易になり、日本企業の評価を見直すきっかけとなる。
  • 石破茂政権は「投資大国」の実現をめざしている。27年度までにスタートアップへの投資額を10兆円規模にするなどの政府目標を掲げる。規制改革会議の答申を通じて会計基準の変更を促すのはこうした政策を推進する狙いがある。