「日本はアクティビスト天国」 ヘッジファンド収益、世界平均の1.7倍https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB020DZ0S5A900C2000000/
【コメント】
- アクテイビストによる日本企業への投資が増加し、その収益が大きくなっているとの記事が掲載されています。
- アクテイビストには大別して2種類あります。一つは有休資産などの売却や過剰と見られる現金の吐き出しを迫り、その配当を求める短期利益追求型、もう一つは企業風土や運営方針の改善を企業と話し合い改善をサポートする長期利益追求型です。
- 記事によると、短期利益追求型もありますが、最近は企業体質の改善を迫りROE(株主資本利益率)の向上を要求する長期利益追求型も増加しているようです。
- 米S&P500種株価指数でみると、ROE20%以上の企業が4割に達していますが、東証株価指数(TOPIX)はROE10%以下の企業が6割弱を占め、PBRが1倍を下回る企業の比率も依然として全体の4割にのぼっているなど、日本企業の収益性が目立っていることがアクテイビストの投資対象になりやすい原因です。
- アクテイビストという響きには捉え方によってはネガテイブに感じる場合もありますが、最近は企業側と一般投資家側双方にとって有益な動きをしているところが少なくありません。アクテイビストが投資を始め投資額を増やしている企業は、将来企業業績が改善していく可能性が高いと考えていいのかもしれません。(投資は自己責任で!)
【記事概要】
- 日本株を投資対象とするヘッジファンドのもうけが急増している。けん引するのは、株主提案などを通じて企業価値の向上を求める「アクティビスト(物言う株主)」だ。アクティビストの投資対象となった企業の株価上昇で、2025年のファンドのリターンは世界平均の1.7倍に達する。
- 投資家の評価を得やすい資本効率の改善提案などを通し、株価を引き上げる戦略が奏功した。新たなマネー流入を誘い、日本株高の要因となっている。
- 調査会社の米ヘッジファンド・リサーチ(HFR)が算出したヘッジファンド指数によると、日本株を中心に日本の資産に投資するファンドの総収益率(10月末時点)は平均でプラス16.41%だった。北米(プラス8.84%)や欧州(プラス7.19%)のほか、世界平均(プラス9.77%)を大きく上回る。17年(プラス16.71%)以来の水準となる。
- 23年はプラス7.23%とかろうじて北米や欧州を上回ったものの、24年はプラス9.4%と北米(プラス12.0%)、欧州(プラス10.67%)の後塵(こうじん)を拝していた。25年は様相が変わる。トランプ関税で株式相場が乱高下した4月、北米市場や欧州市場の運用による収益率は軒並みゼロ%近傍にとどまった。一方、日本で運用するファンドは3.36%のプラスだった。
投資額は上場企業時価総額の1%に相当
- アクティビストの参入増加が株価を押し上げ、運用収益が増えた。アクティビストはPBR(株価純資産倍率)やROE(自己資本利益率)が低く、株価が割安に放置された企業に注目する。配当や自社株買いの増額、不採算事業の売却、経営陣の交代など多様な手段を株主として提案し、企業価値の向上を促す。株式の非公開化を求めるケースもある。
- 機関投資家や個人など他の投資家も追随し、株高が増幅しやすくなっている。買いと売りを組み合わせて絶対収益を狙う従来型のヘッジファンドが急ピッチの株高で利益を上げづらくなる中、アクティビスト型の収益改善でヘッジファンド全体のもうけが膨らむ構図だ。
- フジ・メディア・ホールディングス(HD)は株価が年初来で97%上昇した。米投資ファンドのダルトン・インベストメンツは6月の定時株主総会で12人の独自の取締役候補を掲げ、経営改革を迫った。村上世彰氏らが関わる投資会社レノ(東京・渋谷)も不動産事業のスピンオフ(分離)などを要請している。
- 株主からの要望を受け、フジHDはメディア・コンテンツや不動産など各事業について収益性を見極め整理する方針を表明。自社株買いも29年度までに2500億円規模で実施する方針だ。
- 米バリューアクト・キャピタルによる大量保有が明らかになった宝HD株も、年初来で8%高い。11日には米エリオット・インベストメント・マネジメントが豊田自動織機株を3.26%保有していることも判明した。同社はトヨタ自動車などが出資する持ち株会社によるTOB(株式公開買い付け)で株式非公開化を目指している。12日終値は10日に比べ2%上昇した。
- 上場企業の株主対応支援を手掛けるアイ・アールジャパン(IRジャパン)のまとめでは、日本に参入するアクティビストは10月30日時点で75。5年間で6割増えた。岡三証券によるとアクティビストの日本株の保有残高(12カ月移動平均)は10月時点で12兆円を超え、上場企業全体の時価総額の1%に達する。
- 米国に比べ、株主を意識した経営が普及していなかった日本は資本効率の低い企業が温存されてきた。米S&P500種株価指数でみると、ROE20%以上の企業が4割に達する。一方、東証株価指数(TOPIX)はROE10%以下の企業が6割弱を占める。PBRが1倍を下回る企業の比率も依然として全体の4割にのぼる。
- 安倍晋三政権で本格化した企業統治改革の流れが、アクティビストが活動しやすい環境をつくる。東京証券取引所は23年3月、上場企業に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請。PBR1倍割れの企業に改善を促した。取引所が株主提案を検討する「圧力」となっている。
- 統治改革を踏まえた株式持ち合いの解消も、アクティビストの活動を促す。安定株主がいなくなったことで、企業はファンド勢の株主提案に向き合わざるを得ない。日本株ファンドを運営するインベストメントLabの宇根尚秀代表は「『変わらない』と思われてきた日本企業について、最近は『アクティビストが入ることで変わり始めた』との認識が市場で広がっている」と指摘する。
中長期で企業価値引き上げる提案か見極めを
- 株高による運用収益の改善は、アクティビストファンドの投資余力を高める。1990年から日本株運用に携わり、2000年代からヘッジファンドで運用を始めたユナイテッド・マネージャーズ・ジャパン(東京・港)の小柴正浩社長はこのほど、投資先との対話を重視するエンゲージメント系のファンドを組成した。
- 運用メンバーには、長年の日本株運用経験がある根津アジアキャピタルのデービッド・スノーディ氏を招いた。小柴氏は「かつてないほどにエンゲージメント系のファンドが勢いを増している」と分析する。
- ROEの持続的な上昇には、株主還元と利益率の向上を両立させる必要がある。アクティビストからの株主提案について「提案数はここ数年で増えているが、短期な利益追求型の提案を狙ったものは今も減っていない」(スパークス・アセット・マネジメントの川部正隆チーフ・アナリスト)との指摘も聞かれる。中長期的に企業価値を真に高める提案なのか、投資家は見極める必要がある。
