会計士から配管工で給与3倍の幸福度 「AIで新産業は望み薄」の未来
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN260CH0W5A121C2000000/
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN260CH0W5A121C2000000/
【コメント】
- 朝から「えっ!」と思わず読んでしまう記事がありましたので紹介します。
- 米国の話ですが、会計士から配管工に転職したら給与が3倍になったという事例です。職業訓練校に通い配管の技術を身につけたそうです。
- 「会計業務はAIでもできるけど、配管工は人間にしかできない。会計士時代に培った交渉力も生きる」「昔はブルーカラーは『汚い仕事だ』と嫌悪されたが、最近はスキルの差別化に悩む大卒のオフィスワーカーがここでリスキリングしているよ」、、、との発言です。会計士だけではなく、教員や事務職からの転身者が目立つそうです。
- 米国ではAIによって知的労働が代替されることへの不安が顕在化していて、AIに代替される業務の社員のリストラが始まっているようです。「AIでホワイトカラー職の雇用が半減する」とのことです。
- やはりAIにより人間の雇用が奪われる可能性はあるようです。「失業の増加を念頭に、あらゆる人に最低限の所得を保証するベーシックインカムが必要」「(AIとロボットであらゆるものが自動化されれば)今後10〜20年でお金は意味がなくなり、働くかどうかは任意になる」との見解も、、、。
- 「雇用が全体に行き届かず、社会保障によって生活が支えられる世界が現実味を帯びつつある」と記事では結論づけていますが、A I利用がやや遅れている日本にもこの波が押し寄せてくるのでしょうか?
【記事概要】
- 人工知能(AI)が人間の知的労働を代替し始めた。オフィスを去って、職業訓練校で配管工や空調整備などの技術をリスキリング(学び直し)する人たちが米国で増えている。これまで新しいテクノロジーは既存の雇用を脅かすと同時に新産業を創出し新たな職を生み出してきたが、AIでそれは望みにくいと専門家は警告する。
「配管工は人間にしかできない」
- 米カリフォルニア州サンノゼ近郊で働く配管工、チョン・マイさん(47)の朝は早い。今の現場は米半導体製造装置大手アプライドマテリアルズの研究拠点の新築工事。まだ薄暗い午前6時に現場に着き、午後2時半に作業を終える生活を送る。
- 高校卒業後は名門カリフォルニア大学バークレー校などで学び、会計士として働いていた。2019年、知人に「数学の知識を生かせてもっと稼げる仕事があるよ」と配管工を紹介され、5年ほど職業訓練校に通った。ブルーワーカーに転身した今は月に1万2000ドル(約190万円)を稼ぎ、会計士時代の3倍だという。
- 会計士から配管工に転身し、新築工事の配管整備を任されるマイさん=本人提供
- マイさんは「会計業務はAIでもできるけど、配管工は人間にしかできない。会計士時代に培った交渉力も生きる」と話す。「昔はブルーカラーは『汚い仕事だ』と嫌悪されたが、最近はスキルの差別化に悩む大卒のオフィスワーカーがここでリスキリングしているよ」
「大卒者ほど就職難、現場へ回帰」
- マイさんが通ったサンノゼ配管技能訓練センター。在籍生徒は18〜55歳の460人で、24年より4割増えた。訓練責任者のブライアン・マーフィー氏は「最近は教員や事務職からの転身者が目立つ」と話す。
- キャリアに迷う人々を引き寄せるのは、手厚いスキルアップの体制と賃金体系だ。同センターは組合の教育部門という位置づけで、配管や冷暖房空調装置などを扱う5年間の訓練と現場実習を無償で提供する。生徒は修了後は組合員として現場で働く。組合が3年ごとに賃上げ交渉してくれ、医療保険や退職金などの福利厚生もある。
- サンノゼ配管技能訓練センターの訓練責任者、マーフィー氏は「大規模配管システムは高度な技能が求められる」と話す(11月17日、米カリフォルニア州サンノゼ)
- マーフィー氏は「以前は全米の高校で教員が『大学で学位を取りなさい』と口をそろえたが、大卒者ほど就職難になり、今は職業訓練校を勧める。AIシフトが現場技術職への回帰を促している」と説明する。
- 全米で学生情報を集約するナショナル・スチューデント・クリアリングハウスによると、25年春は職業訓練校の入学者数が前年比12%増えた。伸びは大学入学者(4%増)より大きい。
- 全米に複数拠点を持つ職業訓練校、ユニバーサル・テクニカル・インスティチュート(UTI)の25年度の新規入学は約3万人で、24年比で11%増えた。カリフォルニア州北部のサクラメント校でトラックの整備を学ぶロビンソン・ザディンさん(19)は「食料を運ぶトラックの整備は世界中で必要とされる」と目を輝かせる。
- UTIで学ぶザディンさんは「皆の食料を運ぶトラックを整備するブルーカラーは世界中で常に必要とされる」と話す(11月18日、米カリフォルニア州サクラメント)
知的労働はAI、再リスキリングにため息
- 米国でブルーカラーが注目されているのは、AIによって知的労働が代替されることへの不安の裏返しだ。米フォード・モーターのジム・ファーリー最高経営責任者(CEO)は「AIでホワイトカラー職の雇用が半減する」と語った。
- 米アマゾン・ドット・コムは10月末、世界の管理部門を中心に1万4000人の従業員を削減した。アンディ・ジャシーCEOは「AIが直接の理由ではない」と説明したが、AIの影響を受けやすいエンジニアが対象に含まれていた。
- アマゾンを解雇された男性はかつて「肉体労働はいずれロボットに奪われるだろう」と考え、リスキリング制度を使ってプログラミングを習得した。「それなのに今は知的労働や創作活動をAIが担い、人間は配管工への再リスキリングが必要になっている」とため息をつく。
- 米国ではAIのためのデータセンターや研究施設の建設ラッシュで、配管工などのブルーカラーへの需要が高まっている。だが、そうした需要がいつまで続くのか、「半減」されるホワイトカラーの十分な受け皿になるのかは不透明だ。ブルーカラーで職を得られたとしても、ホワイトカラーへの道が閉ざされ、職業選択の幅が狭まった結果であれば手放しには喜べない。
「働くかどうかは任意になる」
- かつて世界でAI失業を巡る議論を巻き起こしたのは、英オックスフォード大学のカール・フレイ氏とマイケル・オズボーン氏が13年に発表した研究だった。10〜20年間のうちに米国の職の47%がAIをはじめ機械で置き換わると発表し、衝撃を与えた。
- 生成AIが急速に発展して研究結果が現実になりつつある今、フレイ氏は何を思うのか。取材に応じたフレイ氏は「AIがあらゆる形態の知的労働をこなせる段階にはほど遠い。だがプレゼンテーションの作成や財務分析といった入門スキルは生成AIが代替し、多くの大企業が新卒採用を減らしている」と指摘する。
- カール・フレイ氏はAIによる雇用創出に懐疑的だ
- 18世紀に始まった産業革命以降、経済成長と雇用創出をけん引したのは自動車産業や電気産業といったまったく新しい分野の台頭だった。テクノロジーも新しい仕事を生んだ。例えば全地球測位システム(GPS)が運転を容易にし、ウーバーなどライドシェアの基盤を築き、運転手の数を増やした。
- だがフレイ氏は「AIが同規模の新分野を生み出す可能性は低い」と予言する。過去のテクノロジーとは異なり「AI産業ではAIを生成・改善するためのコーディングなどを既にAI自体が担い、人間が革新を起こす余地が乏しい。それにAIの応用例はほぼすべて、革新的な製品の創出ではなく自動化や生産性の改善だけに焦点を当てている」。
- 雇用なき未来を予想しているのは、フレイ氏だけではない。米オープンAIのサム・アルトマンCEOなどAI開発企業のトップは、失業の増加を念頭に、あらゆる人に最低限の所得を保証するベーシックインカムが必要だと訴える。起業家イーロン・マスク氏は「(AIとロボットであらゆるものが自動化されれば)今後10〜20年でお金は意味がなくなり、働くかどうかは任意になる」とみる。
- 「働く喜び」は失われてしまうのか。雇用が全体に行き届かず、社会保障によって生活が支えられる世界が現実味を帯びつつある。
