法人化にあたり、個人事業主の場合と税率面での対比から「法人化のタイミングは? ~税金面からみる適切な法人化のタイミング~」というブログを書きました。

じつは税率面以外にも、経費計上という観点から

法人化すると様々な節税手段をとることができます!

今回は法人化による税率メリットを、経費の面から紹介していきます!

 

【役員報酬による給与所得控除】

<法人化による、所得種類の変更>

個人事業主から法人化すると、事業主は代表取締役として法人の役員になり、個人事業主時における「事業所得」のかわりに役員報酬といった形で法人から「給与所得」をもらうことになります。

 

<給与所得控除とは?>

給与所得控除とは、給与所得者の経費のようなものです。事業所得は「事業収入―必要経費」で計算され、給与所得は「給与収入―給与所得控除額」によって計算されます。

 

<個人事業主としての事業所得と、法人化し役員としての給与所得、どう違うの?>

売上が1,000万円、必要経費が100万円のとき、個人事業主としての事業所得と役員としての給与所得、どのように変わってくるのか比較してみましょう。

なお、法人の場合は事業によって得られていた利益を全額役員報酬とするものと仮定します。

①個人事業主の場合の事業所得

事業収入 1,000万円 - 必要経費 100万円 = 事業所得900万円

 

②法人化し、役員としての給与所得

売上高  1,000万円 - 必要経費 100万円 = 利益  900万円

役員報酬   900万円  - 給与所得控除195万円※ = 給与所得 705万円

※給与所得控除額は給与等の収入金額によって異なりますので、詳しくはこちらをご覧ください。

 

いかがでしょうか。

法人化した場合は必要経費を売上高から控除した上で、さらに給与所得者として経費のようなものである給与所得控除を受けることができるため、②の方が所得額は小さくなります。

所得税は事業所得も給与所得も総合課税といって、合計所得額に対し所得額に応じた税率をかけるため、所得額が小さいほうが、所得税・住民税額が減ります。

その結果、

①の場合は

事業所得9,000,000円×(所得税率23%+住民税率10%)- 636,000円=2,334,000円

②の場合は

給与所得7,050,000円×(所得税率23%+住民税率10%)- 636,000円=1,690,500円

となり、②の方が約65万円も税額が安く済みます!

※簡便的に基礎控除等の所得控除を考慮していません。

 

必要経費の控除を会社として、給与所得者として、2回受けるようなものですので法人化の大きなメリットといえます。

 

<役員報酬額は自分で決定できる!>

役員報酬はいくらが妥当!?経営者が知っておきたい役員報酬の適正額!」で記載した通り、法人成りした場合は個人事業主=経営者=株主であることが多いため、役員報酬の額を自由に設定することができます。

そのため、個人事業主時に課せられる超過累進税率(所得額に応じ高い税率がかけられる仕組み)が、

法人の場合は、利益が高くても役員報酬額を小さくすれば所得税・住民税や社会保険料の金額を抑えることができ、会社に残った利益には所得税・住民税の最高税率55%よりも低い、約33%で済みます。

なお、役員報酬額を下げても後述の旅費日当の計上で、所得税の発生しない収入を得ることができます。

【旅費日当の計上】

節税手段として旅費日当の計上というのを聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。旅費日当の計上が節税手段といえるのは、所得税と法人税の違いによる影響です。

 

<旅費日当とは?>

旅費日当とは交通費、宿泊費に含まれていない出張中の少額の諸雑費の支払いにあてるものをいい、

出張しなければ払わずにすんでいた費用を会社が負担するために支給するものです。

 

<法人税は旅費交通費として必要経費、所得税は非課税!>

法人税では交通費・宿泊費同様に旅費交通費として経費計上し、消費税も課税仕入れとなります。

一方、旅費日当を受け取った側では旅費日当は「実質弁償的性格に基づくもの」として、所得税法上、非課税所得とされています。

非課税所得は字の通り所得税を課せられない所得であるため、日当として金銭を得ても所得税はかかりません。

 

よって、旅費日当は法人としても必要経費として計上でき、

受け取った個人としても非課税所得として所得税がかからないので、法人化による代表的な節税手段といえます。

個人事業主の場合はこの手段をとれません。

 

<旅費日当が非課税所得となる要件>

旅費日当が非課税所得となるには下記要件が必要です。

・出張旅費について社内のルールを定めた「出張旅費規程」を作成

・旅費日当を高額にしない

こちらの詳細については「法人化による税務メリット~旅費日当編~」をご確認ください。

 

【個人事業主と異なり、家事按分の概念なし!】

<個人事業主の場合>

個人事業主の場合は1台の車を自家用車、事業用として使用している場合、発生している費用を事業にかかった経費のみを必要経費として計上することになります。

このように1つの支出について個人利用分と事業利用分がある場合は、個人利用分と事業利用分を按分し、事業利用分のみを必要経費にする考え方を「家事按分」といいます。

この按分基準は合理的に説明可能なものである必要があり、税務調査で指摘されやすい点でもあります。

 

<法人の場合>

では法人の場合はどうなるのでしょうか?法人の場合は家事按分という概念がありません。

事業目的の支出で法人名義の契約や、法人名義のクレジットカード、法人口座からの支出については原則として経費または資産として計上されます。

なお、明らかに法人使用されておらず、個人使用しているような経費や資産が計上されている場合、税務調査にて否認、認定賞与として課税されることがあるので注意が必要です。

 

【自宅を社宅扱いに!】

個人事業主の場合、自宅の家賃を経費計上するには自宅の一部をオフィスにしている場合のみでした。

一方法人の場合は、社宅扱いにすることで家賃の約5割(最大9割)程度を法人の経費として計上することが可能になります。

また、受け取る側にとっても家賃の負担が少なくなり、手取り収入が増えるというメリットがあります。

こちらの詳細については「法人化による税務メリット~社宅編~」ご確認ください。

 

【法人保険や航空機リースの利用】

<法人保険の利用>

法人契約による生命保険を用いた節税策は税制改正により縮小されたものの、要件を満たすことで保険料を法人の経費として計上することが可能です。

例として、福利厚生目的で加入する養老保険があげられます。

養老保険とは「一定期間の死亡保障と将来に向けた貯蓄機能をうまく兼ね備えた保険」のことで、貯蓄性の高い積立型の保険です。

そのため、本来法人で加入した場合は保険料を全額資産計上する保険商品になりますが、「従業員の福利厚生」という名目のもとに加入することで保険料の1/2を法人側で損金処理することが可能です。

なお上記の名目を満たすには、従業員を普遍的に加入させることや、契約者、被保険者、死亡保険金受取人、満期保険金受取人に制限がありますので詳細は国税庁HPや、顧問税理士等の専門家にご確認ください。

 

なお、個人事業主の生命保険料は、支払った保険料を事業の経費とすることはできず、所得控除の一種である生命保険料控除により一定額が控除(最大12万円)されるのみです。

こちらの詳細については「法人化による税務メリット~法人保険編~」をご確認ください。

 

<航空機リースの利用>

節税方法として、航空機リース投資を活用した節税方法等もあります。

航空機リース投資は、多額の資金を投入して早期に損金を多く計上できるにもかかわらず、リース期間終了後には投資額と同等か、

それ以上の利益を出せるリスクの低い節税対策として人気がある投資商品です。

こちらの詳細については「法人化による税務メリット~航空機リース編~」をご確認ください。

 

【本当に節税?課税の繰り延べ?】

なお、上記における節税には将来的にみても税金が減る「狭義の節税」と、

現時点においては税額が減るものの、将来的にみれば税額は変わらない「広義の節税」=課税の繰り延べがあります。

上記でご紹介している旅費日当の計上は「狭義の節税」として将来的に見ても税金が減る節税策ですが、

法人保険、航空機リース投資による節税は単なる課税の繰り延べですので、「広義の節税」に該当し、

将来的にみれば税額は変わりませんのでご留意ください。

【繰越欠損金の繰越可能年度が10年に!】

欠損金の繰越しという、前期が赤字だった場合、黒字が出た期に赤字と黒字の所得を相殺可能な制度があります。

この制度は青色申告をしている個人事業主にもありますが、期間は損失が発生した年以後3年となっています。一方、法人化することで当該期間が10年に変わります。

 

【まとめ】

いかがでしたでしょうか。

今回は法人化による税務メリットを経費の側面から解説していきました。

Takeoffer会計事務所は会計処理から税務相談まで幅広いアドバイスを行っております。

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