経営者の皆様にとって、「この共済に入れば節税になりますか?」「保険を使えば税金が減りますか?」という点は気になるポイントかと思います。
結論から述べると、今回ご紹介する3つの手法は、いずれも「節税」ではなく「課税の繰延べ」にあたります。つまり、 税金そのものが減るのではなく、納めるタイミングが将来にズレるだけで、トータルで支払う税額は変わりません。
今回は、
- 経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済) 240万円
- オペレーティングリース 1,000万円
- 法人保険 1,000万円
の3つについて、期末に一括で前納した場合のキャッシュの動きを、法人税等の実効税率を簡便的に34%で計算し具体的な事例を見ていきます。
「課税の繰延べ」とは何か
考え方はシンプルです。
- 期末に一括で支払う → その全額を損金算入できる → その事業年度の税金が減る
- 一定期間後に解約・満期・償還を迎える → 受け取ったお金は全額が益金(利益)になる → その事業年度の税金が増える
つまり、「今年減った税金」と「将来増える税金」は同額になります。差し引きすればゼロですので、トータルの税負担は変わりません。
では意味がないのかというと、そうではありません。メリットは「税金を後払いにできる期間、そのお金を自社の資金として使える」という時間的な価値です。つまり、税務署から無利息でお金を一時的に借りているイメージです。この点を正しく理解した上で活用するかを判断することが重要です。
具体例①:経営セーフティ共済(240万円・40ヶ月後解約)
経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)とは、不測の事態による連鎖倒産や経営リスクを回避し、中小企業の資金繰りを支えるための共済制度です。
最大8,000万円(掛金の10倍相当)までの融資を無担保・無保証で受けられるほか、支払った掛金を損金または必要経費に算入できる点に大きな特徴があります。掛金月額は5千円~20万円まで自由に選択でき、法人としての損金・個人事業主の場合の必要経費のどちらかに算入できます。
ここでは、期末に一括前納するケースとして、月額上限20万円×12ヶ月分にあたる240万円を前納するケースを例とします。
中小企業倒産防止共済は加入後40ヶ月以上経過してから任意解約すると、掛金が100%戻ります(解約手当金)。
| 支払・受取額 | 税率34%の影響 | 実質キャッシュの動き | |
| 前納した年度 | 240万円支払(全額損金算入) | ▲81.6万円納税減 | ▲158.4万円(実質負担) |
| 解約年度(40か月後) | 240万円受取(全額益金算入) | +81.6万円納税増 | +158.4万円(実質手取) |
| 通算 | ±0円 |
前納した年度は「240万円を支払ったが、法人税等が81.6万円減ったので、実質の持ち出しは158.4万円で済んだ」という状態になります。40ヶ月後に解約すると、「240万円が戻ってくるが、81.6万円分は納税に回るので、手元に残るのは158.4万円」となり、最終的に差し引きの影響は0円です。これが課税の繰り延べです。
ただし、経営セーフティ共済を利用する際の注意点として、以下2つがあります。
①40カ月未満での解約は元本を割るため、40カ月後に解約をする必要があります。特に12ヶ月未満の解約は掛け捨てとなります。
②2024年10月以降、解約後2年間は掛け金の損金(必要経費)に算入できないルールに変わりました。つまり、短期間での「解約→再加入」による繰り返しによる節税には制限がかかっています。
具体例②:オペレーティングリース(1,000万円・48ヶ月後償還)
ここでは、航空機や船舶などを対象としたオペレーティングリース事業への出資を、期末に一括で1,000万円行うケースを考えます。
オペレーティングリース投資対象のリース案件によって利回りやリース料を原資とした分配の流れは異なりますが、以下では大まかなリース投資による節税の流れをご紹介します。
Step①出資:出資後の持ち分は法人の資産として会計処理
Step②分配金の受領:リース物件の賃貸期間中分配金を受取り、益金算入
Step③減価償却:取得したリース物件の取得価額を一定の期間にわたり減価償却
Step④リース期間満了:資産を売却し、リース資産の購入費用を回収する
対象資産を定率法で減価償却していく仕組みのため、定率法を活用して早期に減価償却を進めた場合、節税効果を前倒しで得られるように設計されている案件もあります。
前提条件
- 出資額:1,000万円(期末に一括出資、対象資産の取得価額と同額と仮定)
- 減価償却:定率法(200%定率法)、耐用年数5年(償却率0.4)
- リース収入:年間160万円を匿名組合から毎年分配(想定利回り16%)
- 48ヶ月(4年)経過時点で対象資産を売却・償還。償還時の分配金は「その年のリース収入+売却代金」とし、出資額と同額の1,000万円が最終的に手元に戻る前提。
※実際の償還額は、対象となる船舶・航空機の売却価格や為替や市況の状況によって変動します。ここでは仕組の理解のため、出資額と同額が戻ってくると仮定した簡略モデルで計算します。支払・受取額 税務上の損金 税率34%の影響 実質キャッシュの動き 出資した年度 1,000万円支払(全額損金算入)
160万円分配受取(全額益金算入)
400万円減価償却▲240万円 ▲81.6万円納税減 ▲758.4万円(実質負担) リース収入分配(12ヵ月後) 160万円分配受取(全額益金算入)
240万円減価償却▲80万円 ▲27.2万円 +187.2万円(実質負担) リース収入分配(24ヵ月後) 160万円分配受取(全額益金算入)
144万円減価償却+16万円 +5.44万円 +154.56万円(実質負担) 償還年度(48か月後) 160万円分配受取
86.4万円減価償却
360万円償還受取
(全額益金算入)+304万円 +103.36万円納税増 +416.64万円(実質手取) 通算 ±0円 ±0円 ±0円 ただし、オペレーティングリース出資を利用する際の注意点として、元本保証はありませんし、中途解約が実質的に困難な契約のケースもあります。
出資先の事業(船舶・航空機の稼働や売却)のリスクを負う点で、前述の経営セーフティ共済や後述の生命保険とは性質が異なります。
具体例③:法人保険(1,000万円・60ヶ月後解約)
法人保険を期末に一括で1,000万円前納し、5年(60ヶ月)後に解約するケースです。
| 支払・受取額 | 税率34%の影響 | 実質キャッシュの動き | |
| 前納した年度 | 1,000万円支払(全額損金算入) | ▲340万円納税減 | ▲660万円(実質負担) |
| 解約年度(60か月後) | 1,000万円受取(全額益金算入) | +340万円納税増 | +660万円(実質手取) |
| 通算 | ±0円 |
ただし、法人保険を利用する際の注意点として、リース同様に、元本割れリスクがある商品になります。
残念ながら昨今の税制改正以降、保険期間や最高解約返戻率に応じて損金算入割合が変わる商品が主流になっており、「支払保険料が全額損金算入・解約返戻率100%」となる商品はありません。
最高解約返戻率が50%以下の場合は全額損金計上できますが、「保険期間が3年以上の定期保険」または「第三分野保険」のうち最高解約返戻率が50%を超えるもの、は損金算入割合が異なります。
要点をまとめると、解約返戻率が高く設定されている商品ほど、初期段階で費用として計上できる金額が制限される仕組みになっています。
※定期保険とは、一定期間の死亡保障を確保し、満期時に生存保険金がないもの
※第三分野保険とは、いわゆる医療保険や傷害保険と呼ばれるケガや病気による入院等により保険金が支払われるもの
法人保険は税制改正の影響を受けやすい分野です。
今回のモデル計算はあくまで考え方を理解いただくための単純化した前提であり、実際の商品ごとの損金算入割合や返戻率の推移を個別に確認する必要があります。
3つの手法に共通すること
どのケースも、支払った年度に減った税金と、解約・満期年度に増える税金は同額です。「節税額」に見える数字は、実は将来納める税金の前払いを一時的に免れているだけ、という点は必ずご理解ください。
活用するメリット
課税の繰延べであっても、次のような場面では有効な手段になります。
- 解約年度を、業績が落ち込む年や大きな損金(役員退職金の支給など)が発生する年に合わせられる場合:将来増える益金を、別の損金と相殺できれば、繰延べが実質的な節税に転化します。
- 資金繰りの平準化:利益が出た年に税負担を軽くし、その分の資金を事業投資や借入金の返済に充てられます。
- 解約時期をコントロールできる:ご自身の判断で解約・満期のタイミングを決められるため、決算計画に組み込みやすいという利点があります。
逆に言えば、「何となく節税になるらしい」という理由だけで加入すると、数年後に想定外の益金計上と納税額の増加に驚くことになりかねません。解約年度をいつにするか、あらかじめ決算のシミュレーションに組み込んでおくことが重要です。
まとめ
経営セーフティ共済、オペレーティングリース、法人保険はいずれも「課税の繰延べ」であり、トータルの税負担を減らす仕組みではありません。
しかし、繰延べた税金をいつ、どのような形で解消するかを事前に設計しておくことで、資金繰りや決算対策として大きな効果を持つことができます。
Takeoffer会計事務所は会計処理から税務相談まで幅広いアドバイスを行っております。
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